【告発ルポ】子どもが危ない~SNS性犯罪者の罠

ニュース 社会
3人の加害者から見えたデジタル時代の闇

学生限定SNSに紛れ込む

 男は一見、どこにでもいる若者だった。

「やめなきゃという気持ちもありましたが、出所後に会社をクビになったり、SNSで誹謗中傷を受けたり多大なストレスがあって、はけ口に男の子との出会いを求めてしまいました」

 坊主頭に黒い長袖Tシャツ、紺色のスウェットズボンで千葉地裁の法廷に現れた富田嵐(当時29)は、強制性交等などの罪で起訴された。

 富田は2014年6月、船橋市の商業施設で6歳男児をトイレに連れ込み体液を塗りつけるなどして強制わいせつや児童ポルノ禁止法違反に問われ、懲役2年の実刑判決を受けている。今回の事件は出所から2年後の犯行だった。被害に遭ったのは、当時小学5年生の男児。調書で富田との出会いをこう語る。

「母親が買ってくれたタブレットで『ひま部』というアプリを使っていて、被告人と知り合った。LINEに移ってやりとりを続けていると、お互い車に興味があるということが分かった」

 ラジコンカーを買ってあげる……などと男児を誘い、自宅に連れ込んだのは2018年のこと。わいせつな行為に及び、その様子をスマホで録画していた。『ひま部』(現在はサービスを終了)は学生限定のSNSだったが、富田はそこに紛れ込み、男児に接触した。

 富田は昨年11月にも、別の5歳男児を市川市内の商業施設内トイレに連れ込み自慰行為を見せたとして、わいせつ目的誘拐などの容疑で逮捕されていたが、この捜索にて差し押さえられたスマホから、今回起訴された事件が発覚した。

「間違いありません」と起訴事実を全て認めた富田は「当時は男児も性的な行為を望んでいると思っていた」と明かしたが、男児は望んではいなかった。調書にこう明かす。

「ベッドに座らされ『チンコを触らせてほしい』と言われた。嫌だったが、被告人が大人だったのと、被告人の自宅にいたため助けてくれる人がいなかったので応じた。『もう帰りたい』と何度か言ったが、理由をつけて帰してくれなかった。部屋を見ると、携帯電話が本棚に置いてあったので盗撮に気づき『データを消して』と頼んだ。嫌な思い出として消えることはない」

 男児の母親が被害を知ったのは、富田の逮捕後。警察から連絡を受けてだった。

児童ポルノ被害が3倍に

 保護者の知らぬ間に、SNSで18歳未満の児童が事件やトラブルに巻き込まれる事案が後を絶たない。

 2017年10月に発覚した座間連続殺害事件において、SNSに自殺願望等を投稿するなどした女子高校生3人を含む9人が殺害されたことも記憶に新しい。判決が確定した白石隆浩死刑囚(30)は当時「死にたい」などの投稿をしていた被害者らに接触していた。

 SNSをきっかけとした事件の被害児童数は近年増加傾向にある。警察庁が公開している資料『令和2年における少年非行、児童虐待及び子供の性被害の状況』内「SNSに起因する事犯の被害状況」によれば、犯罪被害に遭う児童の数は平成23年(1085人)から令和元年(2082人)まで、概ね増加の一途をたどっている。特に注目すべきは、児童ポルノ禁止法違反の被害児童数。平成23年(217件)と比べ約3倍(671件)に増加した。刑法犯の検挙人員自体は減少し続けていることを考えれば、この事態がいかに深刻か分かる。

「ワタナベマホト」の名前で活動していた元人気ユーチューバーが、自身のファンだったという当時15歳の女子高校生にスマートフォンで裸を撮影させ、そのデータを送らせた事件も大きく報じられた。「30枚送れば電話、50枚送れば会える」とファン心理に付け込み裸の写真を要求しただけでなく、口止めのためか、学生証の写真も送らせていた。

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児童ポルノの被害は増加傾向

「なりすましおじさん」の手口

 SNSを介した児童のトラブルは、日本だけでなく世界的に増加傾向にある。今春公開された映画『SNS-少女たちの10日間-』は、未成年の少女たちがSNSに登録すると何が起こるのかを検証したチェコのドキュメンタリー作品だ。オーディションで選ばれた18歳以上の女性3人が12歳という設定でSNSを始めたところ、わずか10日間の撮影期間中、2458ものアカウントからコンタクトがあり、その多くが、自身の陰茎の動画像を送りつけるなど、性的加害を加えていた。同作はチェコでの公開後に大きな話題となり、警察も捜査に乗り出す事態に。今年3月下旬時点で52人の男性と1人の女性が捜査を受けており、既に8人が裁判で有罪判決を受けた。

 日本ではSNSに家出願望を投稿する、いわゆる“神待ち”の女子児童に、男が連絡を取ってホテル等に誘い出す事件の増加も報じられた。背景には新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛やネットカフェ等の休業で、家庭に事情を持つ少女らの居場所が失われたこともあるといわれる。元埼玉県警捜査一課デジタル捜査班班長の佐々木成三氏は「チェコの映画と同じような現状が日本にもある」と危機感を募らせる。

「過去に、中学2年生の子が誘拐されたという捜査を担当した際、彼女の『家出したい』というSNSの書き込みに対し、10分の間に20件くらいコンタクトがあったんです。SNSには年齢の境界線がない。性的な行為が目的の犯罪予備軍は投稿に常に目を光らせています」

 加害者たちがSNSで好みの少女を物色して近づき、信頼させた上で写真を送らせる手口は卑劣だ。ITジャーナリストでスマホ安全アドバイザーの鈴木朋子氏が語る。

「『なりすましおじさん』は小学生アカウントに見せかけながら、女の子にコンタクトを取り仲良くなろうとします。日常の雑談や相談をする流れのなかで『わたし、胸のカタチ変じゃないかなあ』と、ネットで適当に拾った写真を送って『〇〇ちゃんも送って』と切り出すんです」

 鈴木氏によれば、「女の子が裸の写真を送ってしまうトラブルは小学生に多い」という。

「写真を送った後、それをどう使われるのかということや、相手に自分の裸の写真データを所有されていることのリスクなどがまだわかっていません。次の要求の材料に使われるとか『拡散する』と脅されるかもしれないと思い至らないんです」

 送ってしまった写真をインターネット上にアップされてしまえば、削除は困難だ。1度拡散されると、消すことのできない「デジタルタトゥー」としてネット空間に残り続ける。それは自分が知らない間に撮影されたデータでも変わらない。

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source : 文藝春秋 2021年8月号

genre : ニュース 社会