2012年にリニューアルされた東京駅丸の内駅舎は、日本近代建築の父辰野金吾(1854~1919)の設計によるものだ。国立競技場の設計などで知られる隈研吾氏は大先輩をどう評価するのか。
隈氏
赤レンガの東京駅で東京の顔を作った辰野は、全国の日銀支店をも設計し、経済と景観の要を築いた。実作だけでなく後進の育成にも力を注ぎ、東京大学建築学科で政府が招いたジョサイア・コンドルの後を継ぎ、明治の建築教育の根幹を作った。
華々しい経歴に反し、デザインも理念も、きわめて庶民的であった。西欧の建築家とは対照的な庶民性が、彼の生涯を貫いた。佐賀の下級武士の出で、肥溜め担ぎで家計を支えた体験がそうさせた。
権力者に寄り添って、国家や都市のイメージを作る西欧の建築家は、権力、権威と共にあり、建築業界の最上位にふんぞりかえっていた。ヨーロッパ留学中に、そのヒエラルキーに違和感を感じた辰野は、西欧の建築家が美のみを追究し、耐震構造や施工を軽視することに義憤を覚えた。辰野はデザインとエンジニアリングと施工を一体化して教えた。実作においても、彼は耐震設計を重視し、東京駅で、世界でもあまり例のない鉄骨とレンガの複合構造を実現した。
一部からは、辰野の理念は、デザイナーの独立をおびやかす前近代的なものであり、日本の大工の焼き直しと批判された。しかし、辰野の「統合」によって、日本の耐震設計は世界をリードし、エンジニアリング重視の日本の建築教育は、近年、世界から注目を集めている。
辰野金吾
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source : 文藝春秋 2022年1月号