川端康成「少年」

文春BOOK倶楽部

梯 久美子 ノンフィクション作家
エンタメ 読書

川端文学の“救い”

 川端康成がガス自殺で命を絶って50年の今春、これまで全集でしか読むことのできなかった『少年』が文庫化されて話題になっている。

 この小説を、版元のホームページは「幻のBL作品」としている。BLとはボーイズ・ラブの略で、帯にも「少年愛」の文字が躍る。それは、中学校(旧制)時代、寄宿舎で同室だった清野という下級生との、こんな描写が頻出するためだろう。

〈床に入って、清野の温い腕を取り、胸を抱き、うなじを擁する。清野も夢現ゆめうつつのように私のくびを強く抱いて自分の顔の上にのせる〉〈半時間もこんなありさまがつづく〉

『少年』は、50歳になった川端が、10代から20代にかけて清野について書いた自分の文章を読み返す、という体裁をとっている。ここに引いたのは、中学生だった17歳当時の日記(大正5年12月14日付)で、このほかに高等学校時代に清野にあてた手紙と、大学生だった24歳のとき書いた未発表作「湯ケ島での思い出」が引用される。

 高等学校時代の手紙では、清野に次のように語りかけている(この部分は送ることを控えたという)。

〈下級生をあさる上級生の世界の底まで入りたくなかった、あるいは入り得なかった僕は、僕達の世界での最大限度までお前の肉体をたのしみたく、無意識のうちにいろいろと新しい方法を発見した。ああ、この僕の新しい方法を、なんと自然に無邪気に受け入れてくれたお前だったろう〉

 大学時代に書いた「湯ケ島での思い出」は、400字詰め107枚の未完の作品で、この前半を書き直したものが『伊豆の踊子』になった。

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source : 文藝春秋 2022年6月号

genre : エンタメ 読書