すでに2カ月になろうとしているが、ヨーロッパのテレビは連日、侵攻してきたロシアに対するウクライナの防戦のニュースで埋めつくされている。ウクライナとは国境を接していないイタリアでさえ、逃げてきた難民は10万を超える勢い。ほとんどが女子供と老人なのは、男たちは祖国防衛に残っているからだという。まるで大熊が小羊に襲いかかっているようだが、これは地上での話。地下で別の話が展開中。
ロシアからはヨーロッパ諸国に向けて何本ものガス管が通っている。ヨーロッパが、必要なガスの半ば以上をロシアからの輸入に頼ってきたからで、しかもそのうちの相当な量が、ウクライナを通って運ばれてくる。ロシアはヨーロッパにガスを売ってもうけているが、ウクライナも、通行料という形でロシアにカネを払わせているのだ。
だから地上の戦闘には関係なくガスの流れは継続しており、なぜかロシア側は地下のガス管が通っているところにはミサイルを落とさず、ウクライナ側もガス管の閉鎖などは口にもしない。そしてヨーロッパも、対ロシアの経済制裁の対象から、ガス料金の引き渡しを担当してきた銀行ははずしている。
これにはヨーロッパ側もあわてている。当り前だ。口では平和を唱えながら、戦争はヨーロッパのカネでやっているのだから。とはいえこれも、プーチンのロシアはもはや昔のロシアにはもどらないという楽観的予測のツケを、今になって払わせられているにすぎないのだ。楽観的予測くらい冷徹な判断を狂わせるものもないのだが、歴史とはそのくり返しであったのまで思い出して、ますます気分が暗くなった。
気分が明るくなることはないかと考えていたら、あることに気がついた。まあ「口直し」ですね。なにしろテーマが、利通暗殺後の2人の妻と子供たち、というのだから。
参考にしたのは『大久保利通とその一族』と題した写真集。昔の写真だから色も変っている。これを老眼鏡だけでなく地図を見るときに使う拡大鏡まで動員した結果、また息子たちの体格も参考にした結果、私が思いちがいをしていたのに気がついたのである。
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source : 文藝春秋 2022年6月号