今年の2月25日、こんなメールが届いた。「ロンドン・ブックフェアの国際生涯功労賞の審査委員会は、貴殿を満場一致で2022年の受賞者に決定したのでお知らせします。公式発表の4月1日まではご内密に。おめでとう」。まさに青天の霹靂だった。
知らせによると、本賞は世界の出版界に重要な足跡を残した個人を表彰するもので、2004年に制定。過去の受賞者はフランスの〈ガリマール〉社社長のアントワーヌ・ガリマール、アメリカ〈クノップフ〉社社長ソニー・メイタなど錚々たる出版人が名を連ねており、早川浩がアジアでは初の受賞者という。
考えてみれば英国とはこれまでも浅からぬ縁があった。今回この執筆依頼を機に私の海外での活動を振り返ってみた。
初めて彼の地を踏んだのは1968年。右も左も分からない26歳の若造がロンドンの出版界へ乗り込んだというと勇ましいが、伝手を頼りに挨拶回りをした。父が1945年に興した出版社が海外文学に活路を見出して、なんとか軌道に乗り始めた頃だった。英国の名だたる作家、出版社の版権部長やエージェントに“I'm your Japanese publisher.”と顔を売ったところ、何人もの知り合いを作ることができた。人懐こいアメリカ人作家に比べて、英国人作家は総じて物静かだが近しくなると何かと親身になってくれる。短篇の名手ロアルド・ダールとパトリシア・ニール夫妻の自宅に招かれワインの品定めをしたり、「競馬シリーズ」で知られる“女王陛下の騎手”ディック・フランシスには、1988年の第1回ハヤカワ国際フォーラムの主賓として来日してもらった。
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source : 文藝春秋 2022年7月号