佐田の海(さだのうみ、熊本市出身、境川部屋、35歳)
充実のベテランが優勝争いの大健闘
35歳の佐田の海が、夏場所の土俵をじわじわと盛り上げた。西前頭十二枚目で迎えた先場所、結果的に優勝は横綱照ノ富士にさらわれたものの最後まで優勝戦線に残り、千秋楽では、もうひとりの優勝候補だった隆の勝との大一番を制した。11勝4敗で2度目の敢闘賞を受賞し、「今場所は体の動きもよくて充実した場所でした。父からは『35歳で相撲を取れるのも羨ましいし、優勝争いという“景色”を見られるのも羨ましい』と言われました」と、頬を緩めず、きっぱりとした口調で喜びを表した。
父は、出羽海部屋出身の元小結佐田の海。師匠は、その弟弟子にあたる元小結両国の境川親方だ。「将来は力士になりたい」と幼い頃から心に決めていた息子に、父は「漢になりたいなら境川部屋に行け」と勧めたという。中学卒業後の佐田の海は父の言葉どおり、2003年2月に境川部屋に入門する。境川親方は男気に溢れ、日大相撲部時代は「漢・小林(本名)」、現役時代は「漢・両国」、引退して親方となると「漢・境川」と呼ばれるほどで“男の中の漢”との評判だ。常に目上を敬い、稽古場では弟子の一挙手一投足を気遣う“弟子ファースト”の師匠なのだ。日大相撲部後輩にあたり、相撲解説者の舞の海秀平氏は、「とにかく昔から後輩思い、弟子思いの親方なんです。場所中は弟子たちの相撲に一喜一憂していて、『親方、もうちょっと肩の力を抜かないと長生きできませんよ』と言うくらいなんですよね」と笑う。
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source : 文藝春秋 2022年7月号