「次は1時間後に爆発します」
いがぐり頭で、ビール腹、酔っぱらいの49歳、名前はスズキタゴサク。酒屋の店主を殴り野方署に連行されたこの中年男が、東京を恐怖の底に陥れる爆弾魔だった――。ミステリー小説の旗手である呉勝浩さん。彼の最高傑作との呼び声高い本作は、直木賞の候補作になった。
「この本が文学賞に縁があるとは思わなかった。最近、取材で『ノミネートされるのでは?』と聞かれるたびに、心の中で『わかってないなあ』と悪態ついてましたが、編集者に『言霊ってあるんですよ。嘘でもいいから獲りたいと言ってください』と叱られまして(笑)。それ以来、そう言うようにしています」
秋葉原、東京ドームシティ、次々と爆弾が炸裂し、警察は翻弄される。食い止めるにはスズキが出すクイズを解くしかない。密室の取調室で前代未聞の頭脳戦が繰り広げられる。本作の魅力は何と言っても、強烈な悪人ぶりを見せつけるスズキの存在だ。
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source : 文藝春秋 2022年8月号