多剤併用の“副作用”が患者と家族を疲弊させている
Aさん(83歳・女性)に異変が現われたのは10年前のこと。放っておくと歯磨きを20分も30分もしていたり、趣味の植木が盗まれたと騒ぐようになったのだ。病院で受診すると認知症と診断された。抗認知症薬や鎮静剤を服用したが症状は収まらず、徐々に強い薬を処方されるように。すると錯乱状態に陥った。在宅で介護する長女が振り返る。
「『キーキー』と泣くような高い声で叫んで、夜中でも家を飛び出し徘徊することが何度もありました。交番の前に佇んでいるところを警官に保護されることも5、6回。母も、自分が認知症になったことが時々わかるようで、『死にたい』と言って道路に飛び出したり、道路に寝転がったりしたこともありました」
再び医師に診てもらうと、鎮静作用が一層強い抗精神病薬を処方された。
「すると薬の副作用で歩けなくなりました。妹と介護していたのですが、当時私は常勤の仕事をしていて、夜寝られないと困るので母には何とか寝て欲しい。かわいそうでしたが、そのための薬でもありました。飲むと歩けなくなるのがわかる母は服薬を嫌がりましたが、無理やり口をこじ開けて飲ませたこともありました。お母さん、ごめんなさいって」
その後、疲労が祟り、長女は脳梗塞で倒れた。大事には至らなかったが、会社を退職。介助が必要な90代後半の父親もいるため、在宅介護は無理と判断し、6年前、Aさんを特別養護老人ホームに預けた。だが「私は捨てられた」と怒るAさんにホームの人も手を焼いたのだろう、予告なく強い薬を常用され、昼間も寝ている状態に。2年間でホームを退所し、再び在宅介護が始まる。
以降3年間の在宅介護では、今度は処方された薬があわず、Aさんは寝ない夜がほぼ毎日続くことになる。だが去年、転機が訪れた。ケアマネージャーから、在宅医療を専門とするたかせクリニック(東京都大田区)理事長・髙瀬義昌医師を紹介されたのだ。髙瀬医師が診察をしたその夜、驚くべきことが起きた。
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source : 文藝春秋 2018年07月号