島に住むロシア人と元島民の複雑な本音
釧路行き全日空便の搭乗待合室はロシア人でごった返していた。
羽田空港から1時間半のフライトだが、昼時なので世話役らしい日本人係員が手分けして、ロシア人の団体に幕の内弁当を配っていた。
長く細い脚をジーンズで包んだ娘さんは受け取ると立ったまま箸で器用にご飯をつまみ、ウォトカ好きらしい赤鼻のおじさんたちが腹をゆすって談笑し、小学2年くらいの金髪の少女が屈託なく駆け回った。
自動販売機をにらんでいる40代とおぼしき女性がいた。「ズドラーストウィーチェ、こんにちは、どこから来ましたか?」私は思い切ってロシア語で声をかけた。彼女のそばに立つと、和名はウイキョウで、ウクロップというロシア料理には欠かせない香草が微かに薫った。
「アキタよ」彼女は決心したようにウーロン茶のボタンを押した。ボトルを取り出し、こちらを向いた。
「秋田で何をしてました?」
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source : 文藝春秋 2016年12月号