反発があっても、信念を貫く政治が必要だ
解散は、いうまでもなく総理大臣の専権事項です。したがって、たとえ後ろから羽交い絞めにされても断行しなければいけないときもある。ただし、選挙には七百億円といわれる血税が必要であり、解散とはすなわち四百八十人の衆議院議員のクビを斬ることです。それだけ重い決断を下すには、タイミングに妥当性があり、信を問うべき明確な争点があることが大前提だと思います。しかし、今回の解散にそんな大義があるとは到底思えないのです。
安倍総理は十一月十八日、解散を宣言した記者会見で、「代表なくして課税なし」というアメリカの独立戦争時のスローガンを持ち出して、民意を聞かなければいけないと、解散を正当化しました。しかし、この言葉は、文字通り「納税者の声を聴かなければ、課税はしない」という意味です。景気判断によって増税を延期できることは、法律に明記されています。国会で議論しつつ進めればいいことであって、改めて国民に信を問うべきことではありません。
国会で否決されたから、自分の政策を断固として進めるために衆議院を解散するというのであれば、まだ理解できます。しかし、議会で圧倒的な多数を占めているのは自民党です。増税延期という誰も反対しない争点を掲げての総選挙は、まさにポピュリズムの極みに他なりません。
総理は「アベノミクス解散」と名付けました。私はアベノミクスは失敗だと思いますが、たった二年間では、まだ道半ばであり、その業績評価は難しいと思っている国民もいらっしゃるでしょう。たとえ景気回復を実感できていなくても、「まだわからない」、「評価しにくい」という人もいるのではないでしょうか。
総理は、ご自分の断固たる信念にもとづいて、政策を遂行すればいいのです。その是非について現段階で国民に丸投げするのは、もしアベノミクスがうまくいかず経済が破綻したときに、「国民が支持したからやったので、私の責任ではありません」と卑怯な言い逃れを用意しているようにも思えます。
自民党内からも異論が噴出
今回の解散・総選挙は、疑問点や矛盾点だらけです。そもそも、景気が悪いことを理由に増税を延期するというのですが、総選挙で一カ月間の政治空白が生じれば、それだけ景気対策にも遅れが発生します。
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source : 文藝春秋 2015年01月号