「たたずまい」の現在地

記者は天国に行けない 第11回

清武 英利 ノンフィクション作家
ニュース 社会 働き方

マル暴刑事の家族と食卓を囲む私と、本当の家族との暮らしをつかみ取った彼

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 警部は雄熊のように肥え、マル暴担当の刑事から叩き上げた刑事にふさわしく、もっこり盛り上がった肩と腹の厚みを誇る警視庁捜査四課の係長だった。今の暴力団対策課のベテランで、7人ほどの刑事を率いていた。

「あの警部の夜回りは自宅に上がりこんで待てるよ」

 前任の記者から、そう引き継いだのだが、初めからそれでは図々しいだろうと考えて、その夜は表通りから入った住宅地の春の闇に紛れて彼を待っていた。私は警視庁で知能犯を追う捜査二課に加え、暴力団対策の捜査四課を担当していた。

 午後11時を過ぎて、家々の門灯はほとんど消えている。ゆらゆらと揺れる大きな影と足音が近づいてきた。私は張り付いていた隣家の暗がりから飛び出して、「こんばんは」と声を上げた。それが彼の行く手を突然に遮る形になった。

「何だ、お前! 撃つぞお!」

 酔っていた雄熊は近所中に響く唸り声を上げ、その大兵肥満に似合わぬ敏捷さで腰に手をやって身構えた。どこかの若い組員が闇討ちでも仕掛けてきたと思ったらしい。その威迫に私は飛びあがった。

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source : 文藝春秋 2022年9月号

genre : ニュース 社会 働き方