「そっちにいきのいい若いのがひとり行くから、よろしく頼む」この1本の電話で私の人生は決まりました。
私がまだ中央大在学中の1972年7月10日に、手探りで情報誌『ぴあ』を創刊して以来、ぴあは創業50周年を数えました。資金も人脈もノウハウも、本当に何もないところからのスタートでしたが、皆様のお陰で今日を迎えることができました。これまでぴあを応援し、支えてくださった全ての方に深く御礼を申し上げます。50年もの間、会社や社長業を続けてこられたのは、多くの方との幸運な出会いがあったからに他なりません。ここでは、中でも特にぴあ誕生の礎となったお二方とのご縁を振り返りたいと思います。
1968年、私は故郷・福島の磐城高校を卒業後に上京しましたが、田舎から出てきたばかりの私には電車の乗り継ぎ方すらよくわかりません。映画好きだった私は、地元いわきでもよく映画館に通っていましたが、東京に来てからは、さて映画を観に行くとなっても、そもそも場所も上映作品もわからないのです。そんな経験から、映画や芝居、コンサートなどの情報が一覧できる雑誌があったらどれほど便利かと考えました。
大学3年の私がバイト先の仲間たちにこのアイディアを話すと、誰もが「ぜひ欲しい」と賛同してくれました。この仲間と作り上げたのが情報誌『ぴあ』です。誌名はあえて意味のない言葉、それでいて呼びやすいものにしました。その原点は「遊び」への欲求にあったのです。以来、私の安アパートで夜通し編集会議が行われ、1972年7月に発刊することも決めました。ところが、そこに大きな壁が立ちはだかります。ご存知の通り出版界には取次という仕組みがあり、取次を介さないと書店で扱ってもらえないことを知るのです。まずは取次店を訪問しましたが、会社組織にもなっていない学生仲間の雑誌は全く相手にされませんでした。であれば、と今度は仲間と手分けして書店を訪ね、『ぴあ』を置いて欲しいと交渉に回りましたが、同じく取り合ってはもらえませんでした。
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source : 文藝春秋 2022年10月号