新作の相談からプライベートな話題まで。
40年の交誼を得た編集者が見た流行作家のすさまじき業——
四月三十日、渡辺淳一さんが亡くなられた。ご家族だけに看取られ、自然死のごとき穏やかな死だったと聞いた。私は中央公論社で、渡辺さんの担当編集者として、四十年以上の公私にわたる交誼に恵まれた。その中で見て感じた、渡辺さんの人と文学を書き記したいと思う。
渡辺さんほどミリオンセラーを連打した大流行作家はいなかった。その華やかさを実感したのが、平成二十一年九月十七日、東京會舘9Fローズルームで開かれた「渡辺淳一さん直木賞受賞四十年を祝う会」。発起人には各出版社、新聞社の社主が名を連ね、鏡割りは法被を羽織った社長たちの揃いぶみ。記念撮影では、銀座のバー、クラブのキレイどころ数十人が、舞台上所狭しと顔をそろえる豪勢さだった。
この不況のさなか、何事ならんとのぞいてみた人は、渡辺淳一なる作家の大パーティと知り、ホホウ、流行作家とは豪気なものよと驚いたかもしれない。バブルがはじけて以後、世の中青息吐息。出版界も御多分にもれず、新メディアの影響もあり、本が売れない。そんな中で、次々とミリオンセラーを打ち上げる渡辺淳一さんは救いの神、こんなご時世だから、感謝と景気をつけようと、“淳一御輿”をかつぎ、時ならぬにぎわいになった。
会場で配られた四十年間の創作キャリアをまとめたパンフレットには「渡辺淳一さんの出版部数8489万9810冊+α」とあった。
その後も創作は盛んで、平成二十三年には、「文藝春秋」に連載し、文藝春秋読者賞を受賞した『天上紅蓮』を刊行。これは、平安末期の最高権力者である六十二歳の白河法皇と、その寵愛を一身に受けた十四歳の養女璋子(たまこ)との熱愛を描いた王朝絵巻で、谷崎潤一郎、川端康成の作品に肩を並べる佳品だった。
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source : 文藝春秋 2014年07月号