川口 浩 ヤラセかリアルか

101人の輝ける日本人

高野 秀行 ノンフィクション作家
ライフ テレビ・ラジオ

世界各地の秘境を探検する「川口浩探検隊」で人気を博した川口浩(1936〜1987)。後に番組内のヤラセが物議を醸したが、その魅力は今も高野秀行氏を引きつける。

川口浩 ©共同通信社

 水曜スペシャル枠で放映された川口浩探検隊シリーズを、私は小学生の頃からかぶりつきで見ていた。大蛇に遭遇して川口隊長が「危ない! 気をつけろ!」と隊員に注意を喚起したり、自らピラニアに噛まれて「いててて!」と絶叫したりするのに、文字通り息を飲んだ。そして、猿人バーゴンや巨大怪蛇ゴーグが最後にちらっと現れるのを見て、興奮が頂点に達したものだった。

「俺もああいうことがしたい!」と思い、大学進学後に探検部というサークルに入った。しかし現実は厳しい。先輩たちに「川口浩? あれはみんなヤラセだぞ」と言われたのだ。

高野秀行氏 ©文藝春秋

 衝撃であった。さらに嘉門達夫が「ゆけ!ゆけ!川口浩!!」という歌で川口隊長を揶揄していることを知り、「知らなかったのは俺だけか」と肩を落とした。が、私は川口隊長の衣鉢を継ぐ者。それぐらいではくじけない。「あれがヤラセなら、俺はリアルであれをやる」と決めて、コンゴの奥地に棲むと言われる謎の怪獣モケーレ・ムベンベを探しに行ったのだった。帰国後に出版社に頼まれて体験記を書き、それが私の辺境ノンフィクション作家としての出発点となった。

 私だけではない。10歳年下の後輩である角幡唯介も、同じように川口浩探検隊の世界観に憧れて探検部に入部し(彼は番組が「演出」であると知っていたらしいが)、今では日本を代表する本物の探検家にして作家となっている。

父親の川口松太郎と ©文藝春秋

 また、近年、大人気を博しているテレビ番組「クレイジージャーニー」は、基本的にリアル路線ではあるものの、派手な盛り上げ方が川口浩探検隊を彷彿させる。特に世界の危険地帯に潜入する丸山ゴンザレス氏は私の目には川口隊長とだぶって見える(かなり丸く大きくなっているが……)。

 川口浩は今でも日本人の心の中にずっと住み続けているのである。

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source : 文藝春秋 2023年1月号

genre : ライフ テレビ・ラジオ