花登 筐 最後の会話

101人の輝ける日本人

大村 崑 俳優・コメディアン
ライフ 芸能

上方喜劇ブームの立役者にして、テレビ黎明期を支えた天才劇作家花登筐(はなとこ・ばこ)(1928〜1983)。彼の作品の多くに出演し、スターとなった俳優の大村崑氏が語る。

花登筐

 20代の頃、僕たちは「こばちゃん」「崑ちゃん」と呼び合う仲でした。花登さんは僕が専属コメディアンとして舞台に立っていた梅田の「北野劇場」で脚本を書いていました。意気投合し、一間のアパートで一緒に暮らした時期もあります。

 やがて北野劇場の喜劇が評判になり、僕たちはテレビの世界に進出しました。「やりくりアパート」「番頭はんと丁稚どん」など、花登さんが書くドラマは次々に大ヒット。気がつけば週に8本の花登作品に出ていました。当時のドラマは生放送で、2人とも尋常でない忙しさでした。

 人気絶頂の頃、同じ劇団の芦屋雁之助・小雁兄弟が揃って結婚することが決まった。しかし立て続けに休んではドラマが放送できないので、式を挙げられません。すると花登さんは「3組合同で結婚式挙げたらどうや。それを生中継する」と言い出した。困ったのは僕です。僕には相手がいなかったのです。

 それでも花登さんは「年末までに相手を見つけろよ」と発破を掛ける。そんな時、オーディションに来ていた今の奥さんに出会い、花登さんプロデュースの3組合同結婚式を挙げました。

大村崑 ©石田寛

 いつも一緒の僕たちでしたが、作品がヒットするにつれ花登さんは周囲から「先生」と呼ばれるようになりました。すると花登さんは、慕って近づく新入りばかりを可愛がるようになった。劇団で孤立した僕は1974年、ついに退団を申し出ます。まさかその前日に離婚したばかりとは知らずに伝えたら、「崖っぷちに立つ俺を後ろから突き落とすのか」と責められ、これが僕たちの最後の会話になりました。

 それでも花登さんが僕をスターにしてくれたことには変わりありません。花登さんが長生きすれば、仲直りして元の関係に戻れたと思います。感謝の気持ちを胸に、毎年欠かさず墓参りに行っています。

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source : 文藝春秋 2023年1月号

genre : ライフ 芸能