なぜ時代の闇に立ち向かったのか。担当30年の編集者が明かす大流行作家の素顔
私が清張さんの担当になったのは、1963年、入社5年目に人事異動で「週刊文春」に配属されてすぐのことでした。前任の担当者が緊急入院したので、引継ぐように命じられたのです。それまで文芸誌で、大江健三郎や開高健、遠藤周作、吉行淳之介、高見順といった純文学系の作家の担当をしていた私は、清張さんの作品を数冊しか読んだことがなく、「困ったな……」というのが正直な感想でした。
東京西部の杉並区にあった清張さんのご自宅に1人でご挨拶に伺いましたが、初対面は、ひどくぎこちないものでした。清張さんは原稿を何本も抱えている上に、人見知り。私も口数が多い方ではなかったので、会話らしい会話はなく、「ああ、そうか。今度の新しい担当者か」くらいのことをお話ししただけでした。
このときは、その後、30年以上にわたって清張さんの担当編集者として、長期連載「昭和史発掘」や「松本清張全集」を手がけることになるとは想像だにしませんでした。ましてや清張さんの没後、「北九州市立松本清張記念館」の開館準備に携わり、初代館長を務めるなんて思ってもいなかったのです。
数えてみると、清張さんが遺した作品は約1000点、推計原稿枚数は12万枚に上ります。このうち、全体の4分の1にあたる250余りの作品が、文藝春秋の各雑誌のために書かれたものでした。若い頃から菊池寛を敬愛していた清張さんは「文藝春秋」「週刊文春」「オール讀物」「文學界」で同時に連載を持つなど、この会社には特別な愛着を持っていました。
文藝春秋の歴史を振り返る上でも、清張さんは欠かすことのできない存在です。100周年という節目に、私が見た松本清張という巨きな作家と文藝春秋について、お話ししたいと思います。
本誌で「日本の黒い霧」を連載
ときおり私は、好きな清張作品は何か、という質問をされることがあります。週刊文春で8年にわたって連載した「昭和史発掘」は、私が直接、担当したので特別な思い入れがありますが、小説以外で挙げるとすれば「日本の黒い霧」を外すことはできません。
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source : 文藝春秋 2023年1月号