戦時下、靖国と箱根を襷がつないだ知られざる物語
死ぬ前に箱根を走りたい――。
東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)は、平成二十八年に九十二回を迎える。現存する駅伝では最も伝統のある大会だ。その中で“幻の大会”と呼ばれた年があった。昭和十八年のことである。
実は昭和十五年を最後に大会は中止されていた。日本が戦時体制になり、箱根駅伝で使う道路も、軍需物資の輸送に使われたためだ。
その後、日本は太平洋戦争に突入。徐々に戦況は悪化していく。兵力不足も深刻化、大学生たちは繰り上げ卒業で戦地に送られていった。かつて箱根を走った選手たちは願った。「死ぬ前に、もう一度箱根を走りたい」と。
箱根の代替大会として、昭和十六年一月と十一月には明治神宮水泳場から青梅までを走る「東京青梅駅伝」が行われていたが、伝統ある箱根を走ってこそ選手には意味があった。その理由を、幻の大会の四区を走った慶應義塾大学競走部OBの児玉孝正(91)は矍鑠(かくしやく)と語った。
「駅伝と言えば、箱根しかないと皆が思っていました。当時大きな駅伝は箱根しかなかった。長距離の選手がまず考えるのは、箱根に出たいということです。高校野球で言えば甲子園に行くようなもの。青梅駅伝はありましたが、あれはあくまでサブ。箱根の素晴らしさは、走ったものでしか分からないのですよ」
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source : 文藝春秋 2016年1月号