司馬遼太郎生誕100年からの連想

巻頭随筆

上村 洋行 司馬遼太郎記念館館長
エンタメ 読書

 司馬遼太郎の命日である2月12日は菜の花忌。例年、この日の前後に、東京と大阪交互で司馬遼太郎賞の贈賞式とシンポジウム(司馬遼太郎記念財団主催)を開いている。今年は生誕100年の節目の年、期せずして同日に司馬遼太郎記念館近くの東大阪市文化創造館で開く。シンポジウムのテーマは「司馬作品を未来へ」。次世代に司馬作品が読み継がれるだろうか、読まれるとすればどの作品で、どんなメッセージが託せるだろうか、そのあたりを識者の皆さんにお聞きしたい、と思った。

 生誕100年ということでことさらに財団や記念館で何かをするのは控えた。自己顕示欲が少い司馬遼太郎のことを意識したからだが、菜の花忌の催しには反映させたい。そう考えながら準備に入ると、財団や記念館活動のことが脈絡もなく浮んできた。

司馬遼太郎記念館 ©文藝春秋

 シンポジウムは司馬遼太郎が亡くなった翌年の1997年、大阪・ロイヤルホテルで開いて以来、今回で26回目(コロナ禍で2021年大阪会場は開催せず)になる。司馬遼太郎のことや司馬作品を通じて今日的な問題をテーマに作家や学者、文化人といった識者の皆さんに語り合ってもらっている。記念館友の会の皆さんとの交流誌といった役割も果している記念館会誌「遼」にその都度、要旨を掲載してきたし、NHKEテレでも4月に放映してくださっている。

 第1回は『街道をゆく』の挿し絵を担当された安野光雅画伯、司馬遼太郎との親交が深かった作家の井上ひさし氏、朝鮮近代史研究者の姜在彦(カンジェオン)花園大学教授、そして、同じ新聞社の同僚だった青木彰筑波大学名誉教授がそれぞれの「司馬さん」を語ってくださった。よき理解者、よき話し相手ならではの温かさが感じられた。

 この第1回を含めてこれまでのシンポジウム17回分をセレクトした『「司馬さん」を語る 菜の花忌シンポジウム』(文春文庫)が刊行された。読み返してみて、パネリストの皆さんが語られた言葉の数々に、混迷度を増してきた世相を開く指針のようなものを感じた。

 節目の年でもあり、菜の花忌に合わせることも考えて、昨年の秋、「私の好きな司馬作品」のアンケートをインターネットで行い、年が明けてその結果を発表した。全国の10代から90代までの1567人から回答があり、1位は『坂の上の雲』2位が『竜馬がゆく』3位が『燃えよ剣』だった。うれしく思ったのは、「好きな理由」「いつ頃読んだのか」「次世代におすすめの作品」などの自由回答欄に多くの方が、司馬遼太郎にあるいは司馬作品への想いを重ねられて熱っぽく記入されていたことだった。

 中高年からの回答が多く、初めて司馬作品を読んだ年代は10代と20代で併せて6割を占めた。そのうえ、好きな作品(複数)を8割近くの方が読み返す、と答え、その都度の年代ごとに新たな知識や勇気、元気をもらった、と書き込まれていた。

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source : 文藝春秋 2023年3月号

genre : エンタメ 読書