「『財務省の省益』と言われるのは心外です」“最後の大物次官”がメディア初登場
インタビューを受けるのは初めてです。1995年の大蔵次官退任以降、様々なメディアから依頼を受けましたが、全てお断りしてきました。私は現役時代、松下康雄さん(在任:1982〜84年)、山口光秀さん(84〜86年)、吉野良彦さん(86〜88年)……三代にわたって歴代次官に直接仕えた経験がありますが、3人の方それぞれから、「役人は、辞めた後にあれこれ喋るものではない。絶対に黙っていろ」と、厳しい訓示を受けていたからです。
30年近くこの教えを守って表に出ることは避けてきましたが、「そろそろ話してもいいかな」と思ったのは、昨年7月に亡くなった吉野さんの言葉がきっかけです。最後にお会いした際、「デンちゃん、そろそろ時期ではないか」と。吉野さんがなぜそう言い出したのかはわかりませんが、昨今の時代の変化を感じ取ってのことかもしれません。
ちなみに、私は自分で言うのも変ですが麻雀が強く、若手の頃は先輩によく呼び出されていました。アガリの時に「デーン」と声を上げていたら、「デンスケ」とあだ名をつけられ、先輩同輩からは「デンちゃん」と呼ばれていました。
ともかく、そんな吉野さんの言葉にも背中を押され、また後世のためにも自分の経験を話しておくべきかと思い、今回インタビューを受けることにしたのです。恐らく、最初で最後のインタビューになるかと思います(笑)。
まずは辛いことですが、大蔵省(現・財務省)の凋について、触れておかなければなりません。私が次官を務めたのは93年から95年。大蔵省が「霞が関の最強官庁」として認められていた最後の時代だったと思います。経済・財政運営の司令塔として予算を配分し、重要な政策を提言して実現に努め、有力な政治家とも堂々と渡りあっていました。
その後、大蔵省の権威は低下しはじめます。98年には接待汚職の問題が噴出しました。2001年の中央省庁再編で金融行政にかかわる部門が引きはがされ、組織としての機能が縮小。財務省へと名称を改めることになります。
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source : 文藝春秋 2023年5月号