「思った以上に難しいテーマでした」
そう語るのは政治学者の宇野重規さんだ。近年『保守主義とは何か』(中公新書)や『民主主義とは何か』(講談社現代新書)などで政治思想の本質を問い直し、再定義を試みてきた宇野さんが、新著『日本の保守とリベラル 思考の座標軸を立て直す』を刊行した。日本に「保守」と「リベラル」の対立図式を適用することができるのかという疑問を携え、近現代の政治思想を読み解いている。
「明治維新と敗戦という2つの断絶により、日本の保守は定義し難いものになっています。しかし、実はリベラルの方が遥かに書くのが難しかったのです。かろうじてリベラリストの系譜を辿ることはできても、この思想が一大潮流を成して日本社会に幅広い裾野を持つまでには至らなかった。政界の歴史を見ても、自民党など保守政党は存在しますが、リベラル政党は思い浮かびません。社会主義を標榜する革新政党が、冷戦の終焉とともに、革新からリベラルへと、いつのまにか看板を付け替えていたような印象もあります。ある意味で、政治家ばかりいて思想家に乏しい保守と、傑出した思想家はいても政治勢力としては弱いリベラルは非対称的なのです」
リベラリストの祖・福沢諭吉をはじめ伊藤博文、清沢洌、石橋湛山、吉田茂、福田恆存、丸山眞男、大平正芳、そして安倍晋三と、宇野さんは、あらゆる時代の思想家や政治家を取り上げ、縦横無尽に論じている。中でも特徴的なのは、第6章で登場する経済学者の村上泰亮だ。
「村上は三木武夫内閣のブレーンで、80年代の代表的な論客でした。『農村部の保守派は滅び、都市部の革新派の時代が来る』と頻りに言われた時代に、サラリーマンなど都市型の新中間大衆は現状を肯定し、革新派による改革など望まないと主張しました。その見方は正しくて、逆に都市部の層を取り込んだのが、保守の中曽根政権でした。村上は時代状況を的確に分析し、すべて彼が言った通りになったとも言えます。今回の本でも取り上げる価値があると思いました」
3年前に宇野さんは学術会議任命拒否問題の渦中に置かれたが、当時の体験も本書の執筆に影響を与えているという。
「結局、政治家とアカデミズムとの間の本質的な議論は起こらないままでした。私たち人類は言葉を使うのだから、圧力でも暴力でもなく議論こそが重要です。今回、私が保守とリベラルを真正面から議論した背景にも同じ考えがあります」
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source : 文藝春秋 2023年5月号