「直木賞血風録」選考委員23年の思い出

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ここで言わないと後悔する。そう考えた俺は座敷の真ん中に出ていき、正座して……(聞き手・大嶋由美子)

 思った以上にホッとした——先日の選考会をもって、23年間におよんだ直木賞の選考委員を退任したいま、率直にそう感じている。

直木賞授賞式にて ©文藝春秋

 作家の才能は一種の圧力、パンチ力となって、読む者へ衝撃を与える。直木賞の選考は半年に1回、候補作が5〜6冊。だから選考委員を務めていると、半年に1回は強烈なパンチを、5発も6発も食らうことになるわけだ。

 直木賞の候補になる作家は、ボクシングでいうとタイトルマッチ挑戦が目前というレベルだし、こっちが想像していた以上に強烈なパンチ力の人もいる。たとえば中島京子さん。『小さいおうち』(2010年7月受賞)というタイトルも一見するとソフトで、巧い人情ものかと思いつつ読み始めたら、重いパンチがきた。こっちは身構えていなかったから、バンバンくらったよ。

 そんな重いパンチや鋭いパンチを、パンチドランカーになるんじゃないかというくらい浴びてきたけど、ようやく終わった。だから安堵しているんだ。

 選考委員に就任したのは2000年、52歳のときだった。打診されたとき、断ることも頭をよぎったよ。俺は3回、候補にはなっているが直木賞をもらっていない。恩義も借りもないから、「嫌だよ」と言うこともできた。だが、そこで考えたんだ。俺には使命があるんじゃないか、と。「第二の北方謙三を出さない」という使命が。

 直木賞・芥川賞というのは不思議なもので、いくつも文学賞はあるが、この2つはNHKのニュースで報じられ、新聞全紙の記事になる。それだけ社会的な影響力があるから受賞すると肩書になる。だから、あらゆる文学賞をとっておられる渡辺淳一さんが亡くなったときも、「直木賞作家」として記事になる。

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source : 文藝春秋 2023年5月号

genre : エンタメ 読書