『路上』を持ち歩く

小沢 一敬 芸人(スピードワゴン)
エンタメ 読書

 撮影の移動中や、収録の待ち時間が大好きで、なぜなら本が読めるから。ご飯食べながらも読むし、とにかく目が暇になるのが嫌なんだよね。目を使わないと勿体ない。ただ、人生で一番本を読んだのは10代の頃だと思う。15歳で高校を中退して、当時は建築現場で1カ月働いて、お金が溜まれば、2カ月は友達とブラブラ遊ぶ生活を繰り返していた。家ではお金がかからないから、もっぱら本を読んでいたんだ。

スピードワゴン・小沢一敬氏 ©時事通信社

 当時、影響を受けた作家で真っ先に思い浮かぶのは、阿佐田哲也とジャック・ケルアック。阿佐田さんの『麻雀放浪記』(文春文庫)がとにかく好きでね。今でも週に何度も麻雀をやるけど、この本の影響かもしれない。ピカレスクロマンというジャンルで、まったく綺麗ごとが書かれていないのがいい。

 主人公の「坊や哲」の兄貴分の「ドサ健」ってのがいるんだけど、これがクールな悪党でね。彼女の家の権利書を麻雀に賭けちゃうんだ。「どうして迷惑かけるの! 自分の女なら大事にしてよ」と怒る彼女に向けて、ドサ健は「お前が俺の女だから。世界中でお袋とお前にだけは迷惑かけていいんだ」って言い放つ。なるほどと思ったね。僕はよく皆から「小沢さんは女性に優しい」とか言われるけど、それは彼女じゃないから(笑)。

 当時の僕はロックバンド「ザ・ブルーハーツ」に強烈な影響を受けていて、とくにギタリストの「マーシー」こと真島昌利さんが大好きだった。彼が読んだと公言した本は、片っ端から読破したね。

 その一つがケルアックの『路上』(河出文庫)。ギンズバーグや、バロウズが担い手になったビートニク文学を代表する作品だけど、若者2人が破滅的な生活をしながらアメリカ大陸を放浪する。僕も当時は先輩と寮暮らしで、むしゃくしゃした行き場のない気持ちを抱えて、「2人でどっか行ってしまえ」なんて考えたりもしたよ。

 昔の文庫本の表紙がとにかくお洒落でさ。真っ青な空に、赤と白で描かれたモーテルの看板。部屋に飾ってあるだけでカッコいいし、わざと持ち歩いたり、何冊も買っては、友達にも配ったね。

 それで言うと、寺山修司の『ポケットに名言を』(角川文庫)は、50冊は買ったと思う。これも友達にたくさん配った。『書を捨てよ、町へ出よう』(角川文庫)もそうだけど、寺山の作品は難しい言い回しがなくて、文章も軽やかだから読みやすい。喉をスッと抜ける飲み物みたいに。寺山は短歌や俳句も嗜むんだけど、僕が「NHK短歌」の司会を10年近くやれているのも、今思えば、寺山のおかげかもしれないね。

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source : 文藝春秋 2023年5月号

genre : エンタメ 読書