2004年、私は初めて日本を訪れた。その頃、NHKで韓国ドラマ『冬のソナタ』が放送されていたが、主人公たちが日本語を話す(吹き替え)シーンに違和感を覚えつつも、不思議な安堵感を抱いた。公共放送で韓国ドラマを放送するほどならば、少なくとも街で「朝鮮人」と呼ばれて暴力を振るわれることはないだろうと思ったのだ。
今振り返ってみると、私の心配はやや滑稽なものだったかも知れない。しかし、何の予備知識も持たずに日本に来た26歳の韓国青年の少し大げさな心配は、韓国ではむしろ納得できる話として受け入れられた。特に年配の親戚たちの心配は非常に非現実的で、時には陰謀論に近いものも多かった。
結果的に私は日本で暴力に遭うことなく、無事に経済学の修士号と博士号を取得し、ある大学で職を得ることもできた。そして、10年間に及ぶ日本生活を終え、2014年には韓国の大学に転職することになった。転職を報告する宴席で、私の日本の友人たちは、長年にわたって日本で学び、働いてきたことが、韓国社会でどのように受け止められるか心配してくれた。私は「親日派」という理由で差別されるかも知れないよと冗談を飛ばし、皆を笑わせた。しかし、冗談とはいえ、正直に言えば心の奥底には不安もあった。
そのため、帰国後しばらく、日韓の敏感な問題については、できるだけ言及を控えた。ところが2019年7月1日、日本政府が韓国に対する輸出管理強化措置を発表すると、日本経済の専門家として少しずつ知られ始めていた私は自分の意見を述べざるを得なくなった。当時、メディアから多数のインタビューを受けていたが、「日韓の貿易戦争でどちらが勝つのか?」という質問は欠かさず登場した。韓国のメディアが期待する答えは決まっているように見えた。相手を悪魔化する善悪二元論が公論の場までも飲み込んでしまったのである。
その後、事態はますます悪化し、韓国では日本製品に対する不買運動が始まった。コンビニ店主たちは自発的に日本産ビールの販売を中止し、市民たちはユニクロ店舗の前に立ち、店に入る人々にやじを飛ばした。ところが、同時期に興味深い現象が起きた。不買運動の最中に任天堂が発売した『あつまれ どうぶつの森』が話題になり、アニメ『鬼滅の刃』は空前の大ヒットを記録したのだ。
このように矛盾した状況をどう理解すべきか。重要な要素として挙げられるのは、韓国人の日本観における世代間格差だ。中高年の韓国人にとっては不買運動が説得力を持っていたが、若者たちには全く通じていなかったということである。
MZ世代(ミレニアル世代・Z世代)と呼ばれる現在の韓国の若者たちは、これまでの世代とは明らかに異なるいくつかの特徴を持っている。私は個人的に、現在の韓国が5000年の歴史のなかで最盛期を迎えていると思うが、韓国のMZ世代は、先進国となった祖国を満喫しながら育った最初の世代である。彼らは、流暢な外国語力を基盤にさまざまな外国の友人たちと交流しており、日本に対して劣等感も優越感も特に持っていない。
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