帰国してみて

日本人へ 第127回

塩野 七生 作家・在イタリア
ニュース 社会 政治

 前回の帰国はごく短期間だったので、実質的な帰国は一年ぶりになる。それで今回は、久しぶりの帰国者に今の日本がどう映ったかを書いてみたい。

 ちょうど国会が開会中だったので、本会議から予算委員会までを、衆参ともにテレビで“観戦”したのだった。

 一年前に比べて安倍さんの顔は、イイ顔になっていた。自信を持って仕事している人は、美醜に関係なくイイ顔になるのである。帰国直後に見たイイ顔は、ロケットのイプシロンの責任者の顔だった。

 また、安倍首相は、善処しますとか、やろうと思いますとか言わず、やります、と断言しているのは良い。彼が言うように、二十年間もバンカーに入ったままの日本をグリーンに乗せるには、打つことしかない、のだから。

 ただし、胸の想いは充分でも、それを他者に伝える、と言うかその想いに他者までも巻き込むには、やはり言語の力が必要になってくる。それをどう効果的に駆使するかだが、実は身近なところに宝は埋まっているのだ。起承転結がそれで、これは古今東西の別なく国際競争力を持っている。

 なぜかというと、話すことによって意を伝える場合、人は二種に別れる。前者は、長く話せば話すほど頭がはっきりしてくる人。後者は、長く話しているうちに頭がこんぐらがってしまう人。私も、書く場合は前者だが、話すとなると後者になってしまうので、講演は大嫌いでいまだに下手。

 どうも安倍首相も、後者の傾向があるのではないかと思う。長く話していると、声が上ずってくる。と言って一国の首相である以上、長く話すのを避けるわけにはいかない。それで、起承転結が救い舟になるというわけ。

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source : 文藝春秋 2013年12月号

genre : ニュース 社会 政治