日本孤立

新世界地政学 第31回

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 シンガポールのトップ外交官であるビラハリ・コーシカンは私の古くからの友人である。去年、退官したが、いまも外交全体のご意見番を務めている。

 その彼が、シンガポールのストレーツ・タイムズ紙(1月18日付)に安倍晋三首相の靖国神社参拝に関して寄稿し、シンガポール政府が「遺憾」の意を表明したことについて、「それは怒りよりむしろ悲しみを湛えた遺憾」と見るべきだと記している。

「(首相の靖国神社参拝は)日本の国際的な、とくに東南アジアでのより積極的な外交的役割を果たそうとするまさに首相が推進する取り組みを損なう」。中国の台頭と外交的攻勢を前に、日本にはバランサーとしての外交的役割を期待しているのに、この問題で中国、韓国を挑発し、米国を「失望」させ、アジア諸国に「遺憾」の意を表明させる結果となった、それが残念であり、悲しい、というのである。

 ビラハリから同じせりふを聞いたことがある。

 それは2005年。その年、日本は国連安保理常任理事国入り外交を繰り広げた。ところが、小泉純一郎首相の靖国神社参拝が中国の非難を浴び、日本の常任理事国入りつぶしの口実に使われてしまった。結局、常任理事国入りは幻と消えた。中国に手玉に取られ、米国は口先の支持にとどまり、アジアからは敬遠され、惨敗した。この時の日本の国連外交を担当した当事者の一人は後に「支離滅裂の外交だった」と振り返ったものだが、恐らくこの時の国連外交は日本の戦後外交のうち最大の失敗例だっただろう。失敗の原因はさまざまだが、小泉首相の靖国神社参拝でとどめを刺されたことは間違いない。

 その時、ビラハリは「なぜ、国益を失うことを首相自らやるのか。怒るというより悲しい」と言ったのだったが、その言葉が私の心に突き刺さった。

 私は、2007年『日本孤立』(岩波書店)という本を上梓した。

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source : 文藝春秋 2014年3月号

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