ベストセラーについて語るときに、見落とされてしまいがちなのが学習参考書だ。今回は、大学受験用の標準的単語集として人気がある『システム英単語』について考察する。本書と、姉妹編で、基本的な語彙を扱った『システム英単語Basic』を合わせると年20万部。『システム英単語』の初版は1998年でシリーズの累計は180万部になる。
筆者が、英語の受験参考書の力を実感したのは、外務省で語学研修を受けたときだ。外務省は大学での外国語教育を一切信用していない。それだから、独自の試験と研修を行っている。
筆者が外交官試験を受けたのは、1984年のことだが、当時、外務省は独自の採用試験(現在、キャリア職員の採用は国家公務員採用総合職試験に統合)を行っていた。
筆者が受けた外務省専門職員採用試験もキャリア職員志望者が受けた外務公務員一種採用試験も外国語の試験が重視された。しかし、その試験は、外国語和訳と和文外国語訳がそれぞれ2問出るという、太平洋戦争前の外交官試験と変わらない旧式試験だった。
後に筆者は、外務省でロシア語の研修指導官補佐になったが、採点者の語学力が高ければ、外国語和訳と和文外国語訳だけを試験すれば、受験者の語学力を把握することができることを知った。特に和文外国語訳の試験では、文法、語彙の力がどれくらいあるかが正確にわかる。
受験対策には、英文和訳は、松山恒見/小田島雄志/金子嗣郎『大学への英文解釈』(研文書院、1974年)を用いた。この参考書は、高校で倫理社会を担当した堀江六郎先生に勧められた。当時、埼玉県立浦和高校で倫理社会は、2年生の必修科目であったが、希望者は選択科目として3年生のときも履修できた。倫社を希望したのは5、6人だった。
堀江先生は、「大学入試の準備も兼ねてアメリカのプロテスタント神学者で政治にも強い影響を与えているラインホルド・ニーバーの『光の子と闇の子』を読みましょう」と言って、英文を配った。高校3年生レベルの英語力では歯が立たない。堀江先生は、東大文学部倫理学科を卒業し、英語が抜群にできる。
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source : 文藝春秋 2014年2月号