マリア・レッサ著、竹田円訳「偽情報と独裁者 SNS時代の危機に立ち向かう」

文藝春秋BOOK倶楽部

池上 彰 ジャーナリスト
エンタメ 読書

ノーベル賞受賞者が警告!

 著者は2021年にノーベル平和賞を受賞したフィリピンのジャーナリストです。この年のノーベル平和賞は、ロシアの「ノーヴァヤガゼータ」紙の編集長ドミトリー・ムラトフ氏と共同受賞でした。

マリア・レッサ著、竹田円訳『偽情報と独裁者』(河出書房新社)2420円(税込)

 授賞式の後まもなくロシアはウクライナに軍事侵攻。「ノーヴァヤガゼータ」はロシア国内での活動が禁じられ、ムラトフ氏も国外に出ることになったため、こちらばかりに焦点が当たりましたが、マリア・レッサ氏の奮闘も、もっと日本で知られるべきでしょう。「報道の自由」への侵害は、独裁者による迫害ばかりではないという現代の脅威を明らかにしているからです。

 レッサ氏は現在59歳。フィリピン・マニラで生まれましたが、母親がアメリカ人と再婚したため、アメリカで教育を受けます。プリンストン大学に進学し、アメリカ国内ならいくらでも有利な就職先があるにもかかわらず、祖国に戻って小さなテレビ局でのテレビジャーナリストの道を歩みます。

 その仕事ぶりが認められ、世界各地にネットワークを拡張中だったCNNのマニラ支局とジャカルタ支局の開設に関わります。

 当時のフィリピンでは民主的な選挙で選ばれたコラソン・アキノ大統領に対する軍のクーデターが頻発していました。さらにジャカルタでは、長期独裁政権のスハルト大統領に対する市民の抵抗運動を取材。独裁政権に報道機関はどう立ち向かうべきか身をもって学びます。

 そんな経験を積んだ後、2012年、フィリピンでネットニュースサイト「ラップラー」を立ち上げます。「おしゃべりする」という意味のラップと「波を起こす」というリップルを組み合わせた造語です。時はまさにネットの急成長期。ラップラーは、フェイスブックを舞台にニュースを配信することで、瞬く間にフィリピンでの地位を獲得します。

 しかし、フェイスブックは、ネットニュース会社にとって、プラスの側面ばかりではありませんでした。フェイスブックは、いまになってみれば、2016年に起きたイギリスのEU離脱をめぐる国民投票で、世論を離脱賛成に誘導する道具として使われたことがわかっています。利用者の心理分析を通じて、利用者が好むタイプのフェイクニュースを送りつけたのです。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
新規登録は「月あたり450円」から

  • 1カ月プラン

    新規登録は50%オフ

    初月は1,200

    600円 / 月(税込)

    ※2カ月目以降は通常価格1,200円(税込)で自動更新となります。

  • オススメ

    1年プラン

    新規登録は50%オフ

    900円 / 月

    450円 / 月(税込)

    初回特別価格5,400円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります。2年目以降は通常価格10,800円(税込)で自動更新となります。

    特典付き
  • 雑誌セットプラン

    申込み月の発売号から
    12冊を宅配

    1,000円 / 月(税込)

    12,000円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります
    雑誌配送に関する注意事項

    特典付き 雑誌『文藝春秋』の書影

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2023年7月号

genre : エンタメ 読書