偉大な業績を残し、世を去った5名の人生を振り返る追悼コラム
★平岩弓枝
作家の平岩弓枝(ひらいわゆみえ)は小説で華々しいデビューを遂げ、テレビドラマでは、膨大な視聴者に感動を与えた。
1959(昭和34)年、偽銘で名刀を偽造する鏨師とそれを阻止する鑑定士との闘いを描いた「鏨師(たがねし)」で直木賞を受賞する。このとき27歳で、当時、戦後最年少だった。「正直のところ、嬉しいより空恐ろしい気持ちです」。
32年、東京にある代々木八幡宮の宮司の娘として生まれる。一人娘でのびのびと育てられ、日本女子大附属高校時代には演劇部を結成し、台本を書いて上演する。仲間に河内桃子がいた。同大の国文学科を卒業後、小説家を志して戸川幸夫に師事するが、戸川は長谷川伸主宰の新鷹会に推薦してくれた。
同会には当時、村上元三、山岡荘八、山手樹一郎、池波正太郎などそうそうたる会員がいた。同会員で後に夫となる伊東昌輝によると、平岩が直木賞を受賞したとき「何本かの作品を書いたくらいで、ほかには何の経験もなかった」。しかし、長谷川は平岩の才能を見抜き、次々と新しい試みに立ち向かわせた。
そのうちのひとつが戯曲で、「君は小説の中で書くせりふが下手だね。少し、芝居の勉強をするといい」と助言している。しかも、「テレビドラマを書くのはよいが、舞台とテレビは違う」と先を読んだ警告もしてくれた。
68年から放送の『肝っ玉かあさん』シリーズや、70年に始まる『ありがとう』シリーズは深く視聴者の心をつかんだ。72年のNHK大河ドラマ『新・平家物語』ではうるさ型の歴史ファンを唸らせて、時代劇での評価も確実なものにする。
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source : 文藝春秋 2023年8月号