孫正義の大ピンチ

神谷 秀樹 投資銀行家
ビジネス 企業 テクノロジー マネー

人類の未来はAIで輝くと嘯くが、夢の投資先はゾンビ状態だった

 ソフトバンクグループ(SBG)が2021年度に1兆7000億円、22年度に9700億円の当期純損を計上した。決算説明は部下の後藤芳光CFO任せにして、約7カ月「冬眠」していた孫正義さんが、ようやく6月の株主総会に現われた。世の中でチャットGPTが使われ始めて大きな話題となり、そのAIチップを製造しているNVIDIAの株価が急騰すると、「また攻め時が来た」と熱弁をふるった。そして年内に株式公開を予定するアーム(半導体設計会社)の株価をバブらせようとの思惑からか、また彼得意の大ぼらを吹いておられる。

ソフトバンクGの株主総会 ©時事通信社

 NVIDIAは、孫さんが全株式を所有するアームを売却しようとしたが成立しなかった相手であり、また2019年には5%ほど所有していた同社の株を36億ドルで売ってしまった。今まで持っていれば500億ドルにはなっていただろうから、同社の株価高騰はさぞかし悔しくもあっただろう。

 一方、彼が手放さない賃貸オフィス業のウィーワーク(以下、We)の株価は財務再編成後も一層低迷。2019年に470億ドルだった時価総額は現在2億ドル割れだ。再建を託された社長も財務担当も辞めてしまった。業績回復は無いと判断したのだろうが、米国の商業用不動産の低迷は深刻で、サンフランシスコのダウンタウンはデトロイト化し、ニューヨークのオフィスビルも出社べースの実質入居率は約5割に低迷しているから無理もない。

 孫さんは攻めに転じると言うが、CFOの後藤さんは2022年6月時点で107万8600株所有していた自社株を80万株売却し、会社から借り入れた株式購入資金55億5400万円を返済したとのこと。会社の中身を一番よくご存じで、アームの公開益が年内には転がり込むと見込めるならば、何故この時期に売却したのか、外部投資家は首を傾げたことだろう。

 これまで孫さんに忠誠を尽くしてこられたが、多くの経営陣が去り、彼も引き時を考えておられるのか。1980年代、米国投資銀行に在籍し、日米を跨ぐ不動産バブルを煽った一人であったことを私は悔いたが、彼の心境は今如何なものだろうか。

新たな誇大妄想

 かつて本誌に私は孫さんのことを「誇大妄想狂」と書いた。「ドットコム・ブーム」が去ると、次に「AIブーム」を語り、ビジョン・ファンド1・2号を立ち上げたが、これまで惨憺たる結果に終わっている。

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source : 文藝春秋 2023年9月号

genre : ビジネス 企業 テクノロジー マネー