トクヴィルはトランプの米国をどう書いたか?

新世界地政学 第144回

ニュース 政治 国際
 

 安倍晋三首相が潰瘍性大腸炎を悪化させ、辞任をして1年も経たない頃、安倍再再登板の可能性を永田町の政界ウォッチャーたちからずいぶんと聞かされたことがある。後継の菅義偉政権があえなく崩壊し、岸田文雄政権が誕生したあたりだったか。

 安倍は、第一次安倍政権の運営に失敗した後、5年後に第二次安倍政権で再登板し、7年8カ月に及ぶ長期政権を維持した。二度あることは三度ある。安倍ならありうる、という安倍神話のような趣きもそこにはあったが、安倍再再登板論がそれらしく聞こえたのは「トランプが再び、大統領になったら」という前提付きの仮説として打ち出されたからだったように思う。

「あのトランプがまた、出てきたら、岸田ではもたない。いや、誰も扱えない。その時は、猛獣使いの安倍に再び、お出ましいただくしかないのではないか」

 安倍自身は、そんな憶測を半ば目を細めて聞き流していたが、亡くなる直前まで、トランプとの関係維持に心を砕いていた。

 トランプ大統領時代、米国の政治と社会の分断が世界にとって、中でも米国の同盟国にとって大きな地政学リスクとなることを我々は知った。そのトランプが再び、ホワイトハウスの主になれば何が起こるか分からない。ウクライナ戦争、対ロ関係、台湾防衛を始めバイデン政権が進めてきた外交政策はひっくり返される恐れがある。英ファイナンシャル・タイムズの外交コラムニストのギデオン・ラックマンは「トランプという妖怪が欧州を徘徊している」と欧州の恐怖感を記している。トランプという「妖怪」――トランプ現象――は、トランプが再選されようがされまいが、いや、トランプであろうがなかろうが、米国の政治と外交の新常態として立ち現れつつあるのだ。

 共和党中道派の戦略家として名高いロバート・ゼーリックは自著『アメリカ・イン・ザ・ワールド 合衆国の外交と対外政策の歴史』(日本経済新聞出版から近く出版予定)の中で、「一回限りの売り買いをして相手に対するレバレッジを高める脅しと不確実性に依拠した計算高い外交は、米国には馴染まない」と述べ、トランプ的外交を退けている。しかし、バイデン政権も対中関税継続やTPP加盟拒否やEV国産車支援など保護主義的に「計算高い」政策を志向しており、スタイルはともかくサブスタンスにおいては「アメリカ・ファースト」が超党派的合意を得つつあるように見える。

 それでも、米国はなお世界に関与する復元力を秘めているのではないか。指導力を発揮できるのではないか。そうだとすれば、それはどこなのか?

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source : 文藝春秋 2023年9月号

genre : ニュース 政治 国際