ウクライナ戦争が問いかけていることの一つが、いわゆるグローバル・サウスの挑戦である。G7を中核とする西側が経済制裁も含めてロシアと対決するが、ウクライナを支援することに距離を置く多くの南の国々が存在する。その根底には、開発途上国を中心とするこれらの南の国々が、米国が戦後、主導してつくりあげてきた自由で開かれた国際秩序に不満を募らせている現状がある。
G7広島サミットでは、インド、ブラジル、インドネシアなどのグローバル・サウスの大国の首脳を招き、対話を試みた。しかし、全体で1万9000字にのぼる共同声明・宣言の中にグローバル・サウスの言葉はなかった。
西側がグローバル・サウスを意識してグローバル・ガバナンスの改革を進めようとしたケースがG20サミットの立ち上げである。リーマンショックの後、オバマ米大統領が呼び掛け、実現した。オバマは「ルーズベルトとチャーチルが同じ部屋で2人だけでブランデーをちびちびやりながら話し合いをするのなら交渉はもっと楽だ。しかし、いまはそういう世界ではないし、そういう世界であるべきでもない」と述べた。
正論だったが、その後、G20が新たな国際秩序を構築する司令塔になったかと言えば大いに疑問である。せっかく作ったG20がその後、機能しなかったことがウクライナ戦争を契機としたグローバル・サウスのナラティブとイデオロギー化をもたらしているともいえるのだ。
グローバル・サウスは、1960年代に流行った従属理論の焼き直しに他ならない。南の国々、なかでもアフリカとラテンアメリカが欧米(多国籍企業)に従属させられ、搾取されているが故に構造的な貧困と発展の遅れを強いられているという左翼イデオロギーの残渣と言えるだろう。地域の大国が地域秩序を形成する意思と能力を持ちえず、英仏がアフリカで、米国がラテンアメリカで地域の発展と安定の「最後の砦」の役割を果たせなくなった時、グローバル・サウスという妖怪が世界をさまよい始めたのである。
重要なことは、そのイデオロギーに対してイデオロギーで応えるのではなく、ここで提起される課題を個別具体的に政策として取り出し、双方の政策協調を進めることである。グローバル・サウスと呼ばれるところも地域ごとに課題の性格や取り組みのあり方、アプローチの方法も異なるだろうから、地域ごとに対応策を練ることである。
その際、グローバル・サウスの中の地域の大国の役割が重要である。インド、ブラジル、トルコ、インドネシア、南アフリカ……これら地域大国がそれぞれどのような地域秩序と地域統治の構想を描いているのか、がカギである。
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