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主演映画「乾いた花」をゴダール、トリュフォーとカンヌ映画祭で観た加賀まりこさん

編集部日記 vol.11

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 7月末、猛暑の午後、加賀まりこさんから指定された、神楽坂の見晴らしのよい画廊兼カフェを訪ねました。『仁義なきヤクザ映画史』(文藝春秋刊)の著者、伊藤彰彦さんが聞き手になって、「ヤクザ映画」について話を聞くためです。

 赤白柄の爽やかなワンピース姿の加賀さんは、見た目も、お話も、傘寿目前にはとても思えない、美しさ、若々しさ。〈女なのにワクワクドキドキしながら読みました。この本はぜひ、女の人にも読んでもらいたいよね。(略)実は中身は女性がポイントになっている〉〈この本を読んで、特に観たくなった映画は『北陸代理戦争』(深作欣二監督、1977年)ね。あなたの調べ方がすごいんだけど、実際に福井のヤクザのかたが、映画と同じように殺されてしまったわけでしょう〉と、伊藤さんの本を事前に熟読されていたことにも感銘を受けました。

加賀まりこさん ©文藝春秋

「歯に衣着せぬ毒舌」で知られてきた方です。お会いするまでとても緊張しました。ところが、私は何とも言えない魅力にすぐに惹き込まれてしまいました。立ち振る舞いが凛としているのに、「私は女優よ」といった感じの威圧感はまったくないのです。率直な話のされ方も、「毒舌」というより、どんな相手(たとえば私のような若輩者の編集者)でも、一人一人に向き合おうとされる気遣いとやさしさに満ちています。

伊藤彰彦著『仁義なきヤクザ映画史』(文藝春秋刊)

 取材前、加賀さんが主演されたモノクロ映画「乾いた花」(1964年、篠田正浩監督、石原慎太郎原作)を急いで観ました。『仁義なきヤクザ映画史』第八章「任侠映画を批判する虚無的ヤクザ映画」では、この映画が中心的に取り上げられていますが、破滅願望を抱えるヤクザ(池部良)と、賭場を掌握する女、冴子(加賀まりこ)という、絶望を共有した二人の間にしか生まれない渇望(愛?)を描いた作品です。映像の美しさ、音楽のモダンさ、「哲学的」とも言える洗練されたセリフにノックアウトされました。約60年前の作品とはとても思えないほど「新しい」のです。

 絶賛した巨匠スコセッシは、自分の観賞用にフィルムまで購入したそうです。さらなる驚きは、加賀さんが、この映画を、ゴダール監督、トリュフォー監督、ポランスキー監督と、カンヌ映画祭で一緒に観ていること! 渡仏したばかりでフランス語で立ち入った話はできなかったそうですが、三人とも「素晴らしい!」と言ってくれたそうです。

デビューした頃の加賀まりこさん

〈一瞬でも燃えるものがあれば、それでいい。(冴子は)裕福なお嬢さんなんだろうけれど、そういう刹那的なものを持っている。だから、私のなかで彼女をつかまえるのはそんなに難しくなかったですね〉

 いまも「冴子」的な何かを漂わせている加賀さんのこの言葉は、無類の説得力をもっていました。

(編集部・西泰志)

source : 文藝春秋 電子版オリジナル

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