ほくそ笑んでいる中露イラン……本質は「宗教問題」ではない
今回のハマスとイスラエルの衝突が起きる4カ月前、私はイスラエルを所用で訪ねていました。
イスラエルに行くのは十数年ぶりでしたが、まず感じたのが、ずいぶん警備が緩くなっているなという点でした。現在のイスラエルはハイテク産業が隆盛しており、経済も好調。訪れたテルアビブでは次々と高層ビルが建っていましたし、地中海に面したハイファという都市は、「中東のシリコンバレー」と呼ばれて大発展している。
ハマスの攻撃の後になって振り返ってみると、経済発展の結果、社会全体の緊張感が緩んでいたのかもしれない。軍事的にも9年前の戦闘でハマスを圧倒した過去がある。経済・社会が発展して、昔のような厳戒態勢を維持し続けることも難しく、イスラエル側は「もう大丈夫だろう」と気を抜いていたとしてもおかしくありません。
世界最先端の軍事技術を持つと同時に、諜報機関のレベルの高さもよく知られています。情報技術が発展した国ですから、今やドローンや衛星を利用した通信傍受は得意中の得意。一方で、いわゆるヒューマンインテリジェンス、工作員を出して情報を取ってくるという「人的諜報」が疎かになっていたのかもしれない。
イスラエルが今回のような“失態”を犯すのは、1973年にイスラエルが当時占領中だったシナイ半島で、エジプト軍の奇襲を許して以来、半世紀ぶりです。第四次中東戦争のきっかけとなったその攻撃はユダヤ暦新年の最も神聖な贖罪の日、10月6日を狙って仕掛けられたものでした。今回のハマスの攻撃も10月7日。やはり宗教上の休日を狙って攻撃してきたのです。
私は1978年に外務省に入省した後、アラビア語研修生となりました。1980年にイラン・イラク戦争が勃発したときには、エジプトでアラビア語の研修中。その2年後から在イラク大使館に勤務しました。イラク公使になる前には外務省の参事官、書記官がテロで殺害される悲劇があり、続いてイラク日本人人質事件や殺害事件も経験しました。当時、外務副大臣とともに中東へ急行したことを覚えています。かように、私は外務省では「アラビスト」でしたが、今回のガザを巡る問題については、政治的イデオロギーや宗教的信条を排し、「リアリスト」として分析してみたいと思います。
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source : 文藝春秋 2023年12月号