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「ナイアガラの滝」大自然と人間のダイナミックな共生 「ケベックの春の喜び」黄金のメープルシロップ〈PR〉

カナダ もう一つの物語

ライフ

ナイアガラ「命の水」

 自然大国カナダには数多くの絶景や観光名所が存在する。景観が破壊されることなく美しいのは、人がそこに寄り添うからだ。これまでの旅ではわからなかった“共生”という理想の姿をご紹介しよう。

カナダとアメリカの国境に流れるナイアガラ川は五大湖を水源とし、3つの滝を擁する。カナダ側の滝は幅675メートル、落差52メートル、滝壺の深さ55メートルとアメリカ側より巨大。名所として知られるのはカナダ側だ。流水量は調整されているが、毎分最大で約2億リットルが流れ落ちる

ナイアガラも人も地球でともに生きる生命

 世界三大瀑布の一つとして名高いナイアガラの滝。原始のままの美しさを湛え、ひと目見ようと世界中から観光客が訪れている。展望台に立てば、絶景のみならず、雷鳴のごとく轟く凄まじい水音に息を呑むほどだ。

 ナイアガラは氷河時代が終わる頃に誕生した。約2万年前、絶え間なく降り積もる雪が氷河となり、北米大陸に広がった。厚さ3000メートルもの巨大な氷河は少しずつ移動して大地をえぐり、カナダとアメリカをまたぐ五大湖を形づくる。1万2500年前に氷が一気に溶けた時、五大湖に水が満ち溢れてナイアガラが生まれたのだ。

 この滝の豊富な水が唯一無二の絶景をつくりだしているが、本来の半分程度しか流れていないのをご存じだろうか。実は観光シーズンの日中以外、夜間や冬季は大幅に水量が減らされている。というのも、水量があまりに多いため、馬蹄形をした滝の縁が水力で年間1メートルも削られてしまうからだ。滝が誕生した当時は、端が今より11キロも下流にあった。放っておけば後退が続き、いずれは上流の湖に同化し消滅してしまう。そこで景観を守るため、滝の流水量を調整することになった。取水により滝の浸食は年間3センチにまで抑えることができる。

展望台で滝へ最接近。流水の振動が伝わる

 迂回させた水はクリーンエネルギーの大切な源として、古くから水力発電に利用されてきた。ナイアガラには100年にわたって稼働した水力発電所もある。カナダ側で最古のものは惜しくも2006年に閉鎖されたが、「ナイアガラパークス水力発電所」という施設に変わり、太古の滝の誕生や水力発電の長い歴史を伝える。現在稼働中のサー・アダム・ベック水力発電所は、州政府の施策「ナイアガラ・トンネル・プロジェクト」により送水能力が著しく向上し、近年電力供給量が増大した。電力は一部、アメリカへも供給されるほどだ。

ナイアガラパークス水力発電所は映像を駆使した新アトラクション施設として昨年オープン

 また、氷河はナイアガラの下流に高さ200メートルの断崖「ナイアガラ・エスカープメント」も生んだ。水流を伝ってきた風が崖に当たり、一帯の空気を循環させて夏は涼しく、冬は気温が下がりすぎない。清冽な水とミネラルを含む土壌もあって上質なワインが造られ、最近は国内外で数々の賞も受賞。世界最高品質のアイスワインを含む、多様なワインの銘醸地として知られる。

ナイアガラ・エスカープメントの周辺は60以上のワイナリーが点在

 絶景の裏には大自然と人間のダイナミックな共生が潜む。訪れると心身が満たされるのはその心地よさもあるからだろう。

文=半藤将代
写真=Destination Ontario, Niagara Falls Tourism, Niagara Parks
協力=カナダ観光局、オンタリオ州観光局


ケベック「黄金の樹液」

 東部カナダの森では、雪解けとともにカエデの木から黄金の樹液が流れる。それは貴重なメープルシロップとなり多くの人の生命を育んできた。

早春に採取したメープルシロップを煮詰め、雪にたらして楽しむ飴状のお菓子、タフィ。冷えて固まらないと柔らかすぎてうまくすくえない。ケベック州の人々にとって子供の頃の楽しい思い出だ。冷たい雪と、少し温かいタフィが口の中で一緒に溶けて、満面の笑みが広がる

森のカエデが春にもたらす奇跡のマジック

 パンケーキに欠かせない甘いメープルシロップ。これはサトウカエデの樹液を煮詰めたものだ。カエデの原生林はごく一部の地域に限られ、カナダ東部のケベックで世界生産量の7割を占めている。

 しかも樹液を採取できるのは、毎年3月から4月にかけての4~6週間ほど。そこでシロップ1年分の樹液を取る。1リットルのシロップを作るのに40リットルもの樹液が必要とされ、その希少性や色合いから「リキッド・ゴールド」と呼ばれる。血糖値を上昇させにくく、自然の甘さを安心して楽しめる。抗酸化作用にも優れ、米ロードアイランド大学の研究者らからスーパーフードと認められた。

シロップは色や風味の濃淡で4つのグレードに分類

 はるか昔、ケベックの先住民は砂糖を得るために丸太をくり抜いてカエデの樹液を満たし、焼石を投げ入れて水分を飛ばすという気の遠くなる作業を繰り返していた。極寒の冬を生き抜くため、貴重な栄養源だったのだ。約400年前、ビーバーの毛皮を求めてやってきたヨーロッパ人に、先住民は寛大にも黄金の樹液の存在を教えたという。毛皮交易を通し両者が比較的友好的な関係にあったからかもしれない。毛皮に代わり、いまやメープルシロップは国を代表する貿易品目となっている。大地の恵みがたっぷり詰まった樹液は、日本人に不足しがちなミネラルをバランスよく含み、日本は世界第2位の輸出先だ。昨年末はステイホームの影響で需要が前年比2割増となり、供給がひっ迫。カナダから「メープルシロップの備蓄が放出され始めた」というニュースが世界に流れた。現地では不作や需要急増時に備え、まるで石油のように戦略的に備蓄されているという驚きの事実を知ることにもなった。

北米最古で唯一の城砦都市ケベック・シティはユネスコ世界遺産に登録されている

 長い冬の終わりを感じたカエデの木はほんのり甘さを含んだ樹液を蓄えるようになる。森に棲む農家は樹液を採集しに、雪がまだ残る森を歩き、幹に小さな穴を開けてバケツを吊るす。透明でさらさらした水のような樹液をじっくり煮詰めると、黄金色のシロップになる。出来たてを求めて森の砂糖小屋に人々は集い、温かい料理を囲んで親戚や友人と楽しいひとときを過ごすことが多い。

ケベックから西のオンタリオに広がる紅葉の名所、メープル街道

 カエデの若木から樹液がとれるようになるまでに40年はかかる。数百年を生きて成熟した木の樹液からは、より味わい深く上等なシロップができる。だから農家は森を大切に守る。森に逆らわず、森とともに働くよう子や孫に教えてきた。甘い喜びを分かち合う春が、また今年もやってくる。

文=半藤将代
写真=吉村和敏、Tourisme Québec/ Denis Poulin/ Xavier Girard
協力=カナダ観光局

source : 文藝春秋 2022年3月号・4月号

genre : ライフ