法隆寺と姫路城の精神に打たれる

世界遺産登録から30年

安藤 忠雄 建築家
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私の人生の中で触れた2つの偉大な建築遺産の魅力を書きたい

 法隆寺、姫路城ともに、大阪育ちの私には、とても身近な存在だ。だから、その出会いなど振り返ろうとすると、世界遺産というより、自身の生い立ちが思い起こされる。

 そもそも建築を「つくる」ことが仕事の人間だ。客観的に芸術や歴史を論じるのは専門ではない。だから今回は、「私個人の人生の中で触れた2つの偉大な建築遺産の魅力」「私なりに思うその存在意義」という視点で書かせてもらいたい。

安藤忠雄氏 ©文藝春秋

 まず私の「建築」との出会い、意識したきっかけはといえば、中学2年生、14歳で生家を改築したときだ。

 木造平屋が建ち並ぶ、大阪の下町の一角に建つありふれた長屋住まいだった。それを2階建てに増築する。木の香り漂う近所の木工所が「遊び場」というくらいにモノをつくるのが好きだった私は、学校が終わると家に飛んで帰り、現場に入り浸った。近所に住む年若い大工が仕事を請け負い、1か月余りをかけて、ひとりで完成させた。

 ストイックというか、朝から晩まで黙々と手を動かし、昼休みもろくにとっていなかった印象がある。その姿がひたすら格好よく、ときに邪険にされながら後をついて回った。屋根を解体したとき、頭上にぽっかり穴が開いた。そこから2人で見上げた空の光が眩しく、とても美しかったことを今もよく覚えている。

 子どもの頃は勉強は二の次、子分を引き連れて今日は魚釣り、明日は野球と、日々「おもしろいこと」を探して駆け回る「悪ガキ」だった。その好奇心のまま、一時はボクシングに打ち込んだこともある。プロのライセンスもとったが、数試合戦って「才能がない」と自ら見切りをつけた。10代後半で将来を考え始めたときには、グラフィックやプロダクトなどのデザインの世界に惹かれた。だが結局、「建築」を選んだ。やはり、あの大工の背中が、懸命に楽しそうに働く姿がずっと心の中に残っていたのだろう。

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source : 文藝春秋 2024年1月号

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