身を委ねたくなる魔力

文藝春秋BOOK倶楽部特別編 2023年「わたしのベスト3」

本上 まなみ 俳優・エッセイスト
エンタメ 読書

『カーテンコール』筒井康隆/新潮社
『銃を置け、戦争を終わらせよう』髙村薫/毎日新聞出版
『地球再生型生活記』四井真治/アノニマ・スタジオ

《これがわが最後の作品集になるだろう》と帯に書かれた『カーテンコール』。25篇の掌篇小説の、なんと芳醇なこと。リキュールや果実、スパイスのエキスがとろけ出す極上のボンボンショコラを一粒ずつ味わっているかのようです。しかもどの一粒も似ていない。氏の文章には軽やかで妖しく、どこに連れて行かれるかわからないけど、どうにも身を委ねたくなる魔力がある。

 

 カーテンコールは二度三度と応えてもらえるほど嬉しいもの。本作で最後とはなりませんように。担当編集者さんも《信じていません!》と帯に書いているし。

「サンデー毎日」の連載をまとめた『銃を置け、戦争を終わらせよう』。時事ニュースを切り口に日本社会の現状を見つめ、問題点をわかりやすく整理、この先進むべき道を求める者への指針となる必読本。

 日々の報道は鮮度が命の“なまもの”で、私たちはその目新しさだけを追っかけがち。テレビの報道を見ることやネットニュースの最新リストに目を通すことで「知った気になる」危険性を思います。せめて自分の胸が騒いだ時事については立ち止まって「考える」ことを旨としたい。自分の意見を持ちたいと、本書に触れ改めて認識させられるのです。嘆く、諦めるで終わらせるな、というメッセージが込められた、髙村さんからの重い、でも大切なバトンをしっかり受けとめたい。

地球再生型生活記』の著者はパーマカルチャーデザイナー。一家4人とペット、家畜とともに持続可能な暮らしを実験、考察、実践しています。完全に真似るのは難しいけれど、参考にしたいことがたくさん。自ら手を動かし、たとえわずかでも野菜を作ることで生き抜くための知恵が身につく。著者はその実りを子や仲間にシェアすることで持続性を持たせることができると説く。

 生活を自分たちで作るのって楽しそう。私自身はミニ畑に加えて、来年はコンポストにも挑戦するかなと夢をふくらませています。

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source : 文藝春秋 2024年1月号

genre : エンタメ 読書