見るからに重そうな石造りの地球儀が木々の合間に不自然に落ちている。北半球が地面にめり込み、日本列島も通常と逆さまだ。
「この直径1.2メートル、重さ2.4トンの地球儀を落下させた兵庫県南部地震は、正に『地球』すなわち『わたしたちの世界』を根底から揺り動かした、言語を絶する出来事だったことはまちがいありません」。すぐ隣の案内板はそう解説する。
ここは神戸市須磨区の須磨浦公園。同園の東端に位置する「みどりの塔」というモニュメントの両脇に備え付けられていた地球儀のうち、向かって左側のものが1995(平成7)年1月の地震で落下し、破損してしまった。それをあえて修復しないことで、「あの忌まわしい震災の日々の記憶を失ってしまわない」ようにしているのだという。なるほど歴史の継承としては悪くない試みだ。
ところが、ここではもうひとつの「忌まわしい」歴史がみごとに隠蔽されている。というのも、この「みどりの塔」は、かつて八紘一宇の塔と呼ばれており、1941(昭和16)年11月に神戸新聞の呼びかけで皇紀2600年記念塔として建てられたものでもあったからである。
八紘一宇の塔は石造りの尖頭型で土台を含め高さ16メートル弱。頂部に神武天皇の神話に由来する金鵄をいただき、関東軍司令官などを歴任した本庄繁(兵庫県出身)の揮毫になる八紘一宇の文字を表示して、「“天壌無窮”の国体を象徴」していた(『神戸新聞五十五年史』)。
ところが戦後、碑面の文字が除去され、ついで1954(昭和29)年4月、昭和天皇・香淳皇后の行幸啓を前に緑化運動を象徴する「みどりの塔」に改造された。金鵄が取り除かれ、代わりに手を大きく広げた裸婦像「薫風」が置かれ、正面にも女性のレリーフが添えられた。いずれも神戸で彫刻の振興に尽くした新谷英夫の作品だった。
あらためて見ると、裸婦像に対して台座が大きすぎてアンバランスな印象を受ける。台座の説明には、しかし、改造以降の歴史しか記されていない。『昭和天皇実録』をみても「緑化運動の象徴として建設」と記すばかりだ。
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