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「現役引退に、後悔は一切ないですね」元卓球選手・石川佳純さんの信条と人柄に触れた日

編集部日記 vol.28

電子版ORIGINAL

エンタメ 働き方 スポーツ
石川佳純さん ©文藝春秋

「現在、数百を超える依頼が来ており、一つずつ処理するのに時間がかかっております。本人が確認する案件にしておりまして、もうしばらく時間をいただけますか」

 本誌1月号では、各界の第一線で活躍している方々に、人生において「私が大切にしている10のこと」を語っていただいております。特集の班員だった私は、とある方に企画書を送ったものの、何週間経ってもなかなか動きがない。しびれを切らして何度か連絡を試みたところ、マネジメント会社から返ってきたメールが冒頭の文章です。

 数百件の依頼を抱えるその相手は、元卓球選手の石川佳純さん。7歳で卓球を本格的に始めてから今年5月に現役引退を発表するまでの23年間、五輪ではロンドン、リオ、東京と3大会連続でメダルを獲得し、全日本選手権では5度の優勝、世界ランクは最高3位(シングルス)と、ここには書ききれないぐらいの功績を残されてきました。

 お忙しいことは予想していましたが、仕事の依頼がそんなに来ているとは……。「それでしたら、ご本人が依頼内容を確認されるまでお待ちします」と伝え、果たして実現するのだろうかと、ドキドキしながら吉報を待ちました。こうして数週間経ったある日、マネージャーさんから「メディア対応日を設けるので、その日にお願いできますか?」というお返事が。企画書を送ってから約2カ月、ついに石川さんにお会いできることとなりました。

 10月末の昼過ぎ、マネジメント会社のある都内ビルに伺うと「よろしくお願いいたします!」と笑顔で迎えてくださった石川さん。この日はメディア対応日なので、朝から何社もの取材をこなしていたはずですが、全く疲れた様子を見せることなく本誌取材に応じてくれました。

 ただ、いざ「普段の生活で大切にしていることを10個挙げてください」と言われても、なかなか思い浮かばないものです。最初はポンポンと挙げてくださった石川さんも「あとは何を大切にしていたかな……」と熟考モードに。

 すると、マネージャーさんが「食事とかも大切にしているよね?」と一言。「あっ、確かに!」と答える石川さんに、「(本人ではない)私が思い出したって、しょうがないじゃない!(笑)」と優しく笑うマネージャーさん。そんなありがたい助太刀もあって、徐々に「石川さんが大切にしていること」が浮かび上がってきました。

 その後も、石川さんが「運動を大切にしてます。ランニングは毎日してると思う」と言うと、すかさずマネージャーさんが「最近はもうやってないじゃん!(笑)」とツッコミが入り、その後石川さんから「毎日じゃないかもだけど週3、4回は続けてますよ!」と慌てて訂正が入りました。『自筆の手紙で気持ちを伝える』という項目が挙がった時には、「マネージャーの私にも、手紙をくれるんですよ」と情報を補足してくださいました。

©JMPA

 石川さんが話したことに、時々マネージャーさんが優しくツッコむという、仲の良い友達のような掛け合いに、思わずほっこり。同時に、現役時代から築かれた二人の信頼関係も伝わってきました。

 こうして挙げてくださった「大切にしている10のこと」は是非本記事にてご覧いただきたいのですが、ひとつ、個人的に印象的だったものをご紹介します。

 それは、『自分で決める』ということ。選手時代も現在も、どんな練習に取り組むのか、どんな仕事に挑戦するのかを、石川さんはひとつひとつ“自分で決める”ことを大切にしています。だから現役引退についても、「自分で決めたことなので、後悔は一切ないですね」とキッパリ。

 なぜ、そもそも取材が決まるまでにここまで時間がかかったのか。その答えも、ここにありました。

 限られた時間でしたが、ワイワイ話しながら取材は終了。帰り際、御礼と共に「取材しに来たのに、ずいぶん楽しく話しちゃいました」と伝えたところ、

「私も楽しかったので、良かったです。たぶん年齢が近いですよね。何年生まれですか?」と石川さん。

 1993年の8月生まれだと私が答えると、「あ、やっぱり。じゃあ私が1個学年が上ですね。私は93年の2月なので。年が近いからか、話すのが楽しかったです」と仰ってくださいました。

 終始明るく、最後までこちらに気を遣ってくださった石川さん。23年もの間、世界中のファンに愛される理由を改めて感じました。

(編集部・大岡)

source : 文藝春秋 電子版オリジナル

genre : エンタメ 働き方 スポーツ