新年特大号では、ノンフィクション作家の柳田邦男さんに「いざ100歳まで日記」をご寄稿いただきました。
柳田さんは1936年生まれの87歳。長年にわたり事故や災害の現場に足を運んで取材を続けて来られた、いわばノンフィクション界のレジェンドです。今号では、今も全国を走り回る日々をお書きいただいています。
柳田さんに初めてお目にかかったのは2020年5月。まだ世の中はコロナ禍真っただ中、志村けんさんが亡くなったばかりの頃でした。
日本政府の危機管理の在り方を海外の事例と比較してお書きいただくため、ドイツ帰りの医師が開いた恵比寿のクリニック前で待っていると、橋の向こうから柳田さんが杖をついて歩いて来られました。時節柄、マスク姿。聞けば「腰の手術を受けてから杖が必要になってね」と言います。『がん回廊の朝』(1979年)や『マリコ』(1980年)を書いた大ベテランの姿に感動しながら、まだ肌寒さの残る頃でもあったので、今後の取材は「無理はお願いできないかな」と思いました。
ところが……杖をついてはいるものの、スタスタと速足で歩かれる。打ち合わせで入った店の急こう配の階段も「大丈夫、大丈夫」と言って難なく昇り降りされます。
その後、川崎の聖マリアンナ医科大学病院や、新宿の国際医療研究センター病院にご一緒すると、今度はいろいろな発見がありました。
まず、質問が普通の記者より長い。質問に入る前に自身の見解や問題意識をしっかりと相手に伝えたうえで、最後に質問を遠慮なくズバリ。ICレコーダーなど使わず、自分の前にノートを開き、メモを丹念に取っていく。取材が終われば、愛車に乗り込み、軽く手を挙げハンドルを握って颯爽と引き揚げていく。
驚くことはまだありました。校了時に連絡を取ると、「いま飯舘村に来ています」「今日は大阪で講演」「明日は広島に行かなくちゃいけなくてね」といった感じで、いつも西へ東へと飛び回っているのです。
さらに驚かされたのは、当初8ページ予定だったのが、柳田さんの筆は進みに進んで、なんと最終的に26ページ分の大作が届いたのです(「コロナ対策再検証 この国の『危機管理』を問う」2020年7月号)。やむなく大幅にオーバーした原稿を削りに削っていただいたうえ、1号での掲載はとても無理なので、残りは次号に回させていただいたのでした。
そんな柳田さんが大切にしていることの1つが毎朝のサラダづくり。
「料理が好きってわけじゃないんだけど、サラダだけは自分でずっと作っているんだよね」
サラダといってもレタスだけのシンプルなものではなく、ブロッコリ、トマト、パプリカ、ハムにゆで卵など盛りだくさんで、色どりにも気を使われている様子。「近くに住んでいる孫も喜んでね。食育にもいいんじゃないかなって」。
そんな話をうかがっていたこともあり、また最近、誕生日を機に日記を始めたというのでお願いしたのが、「いざ100歳まで日記」です(今後は3カ月に1回の連載になります)。好奇心旺盛で行動力抜群の柳田さんの姿に、すがすがしさを感じ勇気をもらう読者の方も多いはずです。
柳田さんは若い頃はNHK社会部の記者。1972年に『マッハの恐怖』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した後、独立してノンフィクションを書き続け、すでに半世紀がたちます。
柳田さんのように長く活躍を続ける人には、「大切にしている心がけ」のようなものがあるはずだと、前々から思っていました。
そこで特大号の企画として立ち上げたのが大特集「私の大切にしている10のこと」です。世界的に活躍を続ける俳優、経営者、科学者、音楽家、アスリート、小説家など、長く「旬」であり続ける18名の方々に、「秘かに大切にしてきたこと」を伺いました。
どの方の「大切にしていること」も、マネしたくなるものばかりで、「知恵の宝庫」でしたが、個人的に印象的だったものをあえて3つだけ選ぶとしたら、
山極壽一さんの「議論で勝とうとしない」
小泉悠さんの「水タバコ屋で気分を上げる」
道場六三郎さんの「文明の利器はどんどん活用する」
でしょうか。お読みいただければ、18人分180近くの「長く活躍できる秘訣」に触れることができます。冬休みにぜひお薦めの特集です。
(編集長・鈴木康介)
source : 文藝春秋 電子版オリジナル