「これはすごい」
「思わず聞き入ってしまうね」
「記事で読むのとは、伝わり方が全然違った」
電子版スタート1周年を記念して、今月からアナウンサーの山根基世さんによる「声で読む文藝春秋」が始まりました。ご紹介したのは、読者のみなさんよりひと足早く朗読を聞いた編集部員たちの感想です。
NHKアナウンサーとして60歳で定年されるまで活躍された山根さん。その「声」には、大河ドラマ「太平記」、ドキュメンタリー「映像の世紀」、「ラジオ深夜便」、ご退職後は日曜劇場「半沢直樹」など、数多くの人気番組を通して私たちも親しんで来ました。「山根さんに『文藝春秋』を朗読してもらいたい!」というのは、以前から山根さんの声のファンだった鈴木編集長の念願でもありました。
「雑誌を読む」という、かつては当たり前に溢れていた習慣が大きな変容を迫られる今日においてなお、“物が言いたくてうずうずしている人”たちと“自由な心持で”語り合える場を守っていきたい。そんな思いで立ち上げた電子版で、山根さんの声で読者のみなさんに「文藝春秋」を届けたい——。
読書家でもある山根さんに我々の勝手な思いをお伝えしたところ、開口一番、「とても面白いアイディアですね」と目を輝かせて下さいました。
「声」という、普遍的でありながら掴みどころのないものに、半世紀以上にわたり向き合ってきた山根さん。何度かインタビューする機会を得ました。「個性のない声」と自負されるその声に、誰もが聞き入ってしまうのはなぜなのか。
〈平凡な声の持ち主として、せめて基本を積み重ねなければ〉
そうした切実な思いで「原稿を読み込むこと」「心で感じ取ること」という「基本」を積み重ねてきた結果が、山根さんの声の「個性」、「魅力」として、聞く人にたしかに伝わっているのだと気がつきました。
山根さんの声を媒介したとき、記事は自分で読むのとはまったくちがう表情をもって立ち現れてきます。文章を書くことはもちろんですが、「いかに読むか」ということにも無限の可能性が広がっている。洪水のように溢れる膨大な情報を処理することに、ついつい躍起になっている我が身も振り返り、「心を受け取る」という読むことの豊かさを、改めて感じさせられる年の瀬となりました。
朗読の収録は、弊社スタジオで行っています。NHKさんをはじめとする放送局、テレビ局の素晴らしい設備と比較すると、本当に簡素な環境で、山根さんをお迎えするには心もとないのが現状です。そんな手弁当の企画にご賛同下さり、「文藝春秋」を読むことを楽しんで下さる山根さんに、心より感謝いたします。
(編集部・佐藤)
source : 文藝春秋 電子版オリジナル