2014年、32歳で小結に昇進し、“遅咲きの新三役”と話題になった中村親方(41、元関脇嘉風)。角界一の「睡眠オタク」だという親方が、力士ならではの睡眠にまつわる苦労やこだわりを語る。
相撲に限らず、アスリートには練習・栄養・休養(睡眠)が肝心な三原則と言われています。特に睡眠は重要で、相撲は空腹でも取れますが、寝不足だと取れないものなんです。注意力が散漫になり、ケガにもつながりかねませんから。メンタル――精神面を整えるためにも睡眠は大事。現役時代から今に至るまで快眠の重要性を実感しています。
力士は体重が重いので、敷き布団がすぐにヘタってぺちゃんこになってしまうんですね。貸布団を借りて定期的に替える部屋も多いんですが、私はある年の1月から、自前の高反発マットレスを使うようになりました。すると三月場所で勝ち越し、新小結に。もちろん、睡眠だけで昇進したわけではないですが(笑)。ちょうどトレーニング方法や稽古の仕方、相撲に対する考え方を見直していた時期でもあり、色々な要素が相まってのタイミングでした。
もともと私は小学校時代から「睡眠時無呼吸症候群」だったんですね。6年生の時、同じ相撲クラブの友達が我が家に泊まりに来ていて、「大変だ! 息をしてないっ」とびっくりして揺り起こされました。でも、体格もよくて元気だったので、親も特に気にしていなかった。日常生活に特に支障はなく、ずっとそのままでした。
日体大を卒業して(元大関琴風の)尾車部屋に入門し、2004年1月に初土俵を踏みましたが、相撲界には睡眠時無呼吸症候群の力士がけっこういるんです。肥(ふと)っている人に多いそうですが、寝ている間に空気を取り込む気道が狭くなり、無呼吸状態になる。治療のために「シーパップ」という、鼻に付ける酸素マスクのような装具があり、この器具を使っている兄弟子がいたので話を聞き、僕も病院で検査をしてみました。そうしたら、六、七時間の睡眠時間のうちに30秒間×90回も呼吸が止まっていたとわかった。原因は、やはり体格。まずは痩せるのがいいとのことでしたが、私たち力士はそうもいきません。
この器具を付けてみた初日、今までになく、よく寝られました。ただ、無意識に外してしまったり、装着する前に、ついウトウトと眠りについてしまうことも多かったんです。使わずに寝ると、頭が痛いし、やはり眠い。毎日使い続けるのが難しいなか、たまたま寝具の高反発マットレスを購入してみたら、これが私にはとても合っていた。熟睡できることの心地よさを初めて知ったんです。
当時は朝6時に起きて、自宅から稽古場まで電車通勤していたんですが、毎日熟睡できて、電車に揺られても眠くならない。稽古にも身が入るし、「一日の朝のスタートは、すでに前日の夜から始まっているんだな」と思えたんです。相撲界では、朝稽古のあとにちゃんこを食べて昼寝をする習慣があり、「食事も睡眠も稽古のうち」と言われていますが、熟睡できているので、ちゃんこの後も眠くならない。そのぶんトレーニングに励むことができました。
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