1000日を超えるロングラン上映となったアニメーション映画『この世界の片隅に』(2016年公開)。監督の片渕氏(63)は、戦争体験者の主観的な視点で語られることが多かった「戦時中という時代」を、客観史料を積み重ねることで捉え直し、映画の基盤とした。現在次回作『つるばみ色のなぎ子たち』では「枕草子」を手掛かりに、同じ手法で遥か1000年前の世界への理解に挑んでいる。
2009年に『マイマイ新子と千年の魔法』というアニメーション映画を完成させた。髙樹のぶ子さんの原作小説は昭和30年(1955年)を描いていて、その5年後に生まれて育った自分にとってはまぎれもなく地続きで理解可能な世界だった。
ただ、登場人物のひとり、主人公新子の母親である長子さんが、10年前の終戦時には19歳で、そのときすでに新子を身ごもっていたはず、ということに気づくと、自分には体験がないその時代にまで理解を広げていきたくなった。
画面作りを行う上で、昭和10年代前半と昭和30年は、街の景観や人々のたたずまいなど、多くの点が連続しているように感じられた。表面的には直結しているようにすら見えた。けれど、その中間に、あまりにも不連続に異質な戦時中という時期が挟まっていた。そこには気持ちの理解が届きにくいのを感じた。
「結婚して子どもも生まれていたのに、結婚していないといって雑誌の写真コンテストに応募して賞金をもらった」というのんきな女学生気分の母親・長子さんは、10年前にはやはり防空頭巾ともんぺの姿で防空壕で震えていたのだろうか。
そう考えたことから発展させて作ったのが、映画『この世界の片隅に』だった。この主人公・すずさんもまた茫洋とした人で、長子さんとは1歳違いだった。同じように戦争の時代が似合っておらず、そのことで、この時代に入り込んでゆく水先案内人になってくれた。
『この世界の片隅に』と「枕草子」
『この世界の片隅に』の原作者、漫画家のこうの史代さんは「わたしは歴史に詳しくない」といって、さまざまなことを一から調べて知る、という方法を取っておられた。
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