今月も原稿を落としそうだなと思ったら、秋元康から連絡が入った。「今から、そっちへ行く」と……。“そっち”とは、東京・紀尾井町の「文藝春秋社」に出向くと言っているのだ。月刊「文藝春秋」の連載は、毎回、秋元康自らが秋元康にインタビューするという企画なのだが、そのインタビューを「文藝春秋社」内のどこかでやりたいらしい。
「秋元康が文藝春秋社にやって来る」というニュースは、あっという間に社内を駆け巡った。「何かのスキャンダルの揉み消し工作か?」(いや、そんなことが通用するメディアでないことは充分、知っているはずだ)。「秋元康の独占手記を獲得したか?」(何に関しての独占手記?)。秋元康がそんな重要な秘密を握っているとは思えない。仮に、そんな重要な秘密を入手したら、秋元康は自慢げに、みんなにペラペラと話してしまうだろう。それに、そんなスクープとなるようなネタを持っていても、編集者の箕輪厚介が「見城(徹)さんの手前、幻冬舎で出すしかないでしょう」と言ってくるに違いない。あるいは、「佐藤健にお姫様抱っこされた前田敦子」や「指原莉乃のHKT48への移籍のきっかけとなった」記事に対して、今さらクレームを言いに来るのだろうか?
会社の裏口から、ロサンゼルス・ドジャースの野球帽、マスクにサングラスの秋元康が現れた。変装なのか、今日のファッションなのか、よくわからない。そもそも、秋元康が意識しているほど、「文藝春秋社」はざわついていない。連載をまた落として、謝りに来たのかくらいの関心具合だ。
「日本茶、入れてくれ!」
急遽、編集長に取ってもらった会議室に入るなり、秋元は、手に持っていた紙袋の中をごそごそしながら言った。普段は、高圧的な言い方をすることは一切なく、物腰の柔らかい人なのに、食べ物が絡んで来ると人格が変わる。食い意地が張っているのだろう。「『マイスター工房八千代』の……太巻きな」と包み紙を広げながら、嬉しそうな顔で言う。編集部から借りてきた湯飲みで、あまり色の出ない日本茶を入れる。秋元は、もう、一切れ目を頬張っている。
「君も食べろよ!」
「じゃあ、いただきます」
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source : 文藝春秋 2024年7月号