永田鉄山 陸軍に派閥など許さない

早坂 隆 ノンフィクション作家
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「将来の陸軍大臣」と評されながら、派閥抗争で殺害された永田鉄山(1884〜1935)。『永田鉄山 昭和陸軍「運命の男」』(文春新書)の著者・早坂隆氏が、永田が陸軍で果たした役割を読み解く。

 昭和史の主役の一人が「大日本帝国陸軍」だったことに異論を唱える人は少ないだろう。巷間伝えられる「永田鉄山が暗殺されなければ、大東亜戦争は起きなかった」とは、歴史ロマンをくすぐる言葉である。

「陸軍の至宝」と呼ばれた永田が残した成果は多くあるが、その軍人生活を通じて取り組んだ課題の中心にあったのが「陸軍の改革」だった。

 大正10(1921)年、ドイツ南部のバーデン=バーデンの地に、永田の他、小畑敏四郎や岡村寧次、東條英機が集結。「国民と共にある陸軍」を実現するため、組織の抜本的な改革を決意した。「バーデン=バーデンの密約」である。

 永田は欧州並みの「国家総動員体制の確立」を目指し、工業分野の改革などを通じた「国家全体による国防体制」を推進したが、それと共に尽力したのが陸軍内の「派閥解消」だった。それまでの陸軍には出身地による派閥が存在したが、永田はこの点にメスを入れた。

永田鉄山 ©時事通信社

 そんな永田を悩ませたのが、過激な将校たちの存在だった。永田は橋本欣五郎らによるクーデター計画「十月事件」のようなことが二度と起きぬよう、非合法活動の取り締まりを強化したが、これが「反永田派」を増やす要因となっていく。

 昭和7(1932)年頃になると、統制派と皇道派の対立が激化。永田が主導した改革の結果として出身地による派閥の影響力は大きく減じていたが、その代わりに顕在化したのが、思想の違いによる派閥であった。

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source : 文藝春秋 2024年8月号

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