『週刊新潮』の表紙絵を創刊から25年間描いた画家・谷内六郎(1921〜1981)。実在しないのにどこか懐かしい不思議な風景を描く画風は「昭和の夢二」と称された。長女の広美氏がその素顔を語る。
私が生まれたのは昭和37(1962)年、父が第1回文藝春秋漫画賞受賞で脚光を浴び、『週刊新潮』の表紙絵が始まった6年後です。忙しかったはずですが、幼い頃の記憶にあるのは、父がよくおままごとをして遊んでくれたことでした。
父は子供の世界にどっぷり入り込み、庭にゴザを敷いて始めたおままごとでは、お風呂の場面に差しかかると、庭の池に入ろうとしてしまう。母は慌てて止めたそうです。
父は私にとって絶対的な味方でした。学校で起きた嫌な体験を話すと、「その子はなんでそんなことをするんだろう」と言うんです。「その子が悪い」とは言わず、穏やかに私を落ち着かせてくれました。
父の仕事場はお茶の間で、冬に家族でこたつに入ってテレビを見ていると、その横で父が絵を描いている。弟が小さい頃は、膝に乗せてお話をしながら描いていました。絵を描く時の絵の具は、お菓子の空き箱などに沢山入れていました。絵の具は小学校でも使う、普通の水彩やポスターカラー。表紙絵は、決まったサイズのベニヤ板にボール紙やイラストボードを貼り、その上に描いていました。かなり色を塗り重ねるので、画用紙では反ってしまうのです。
集中して描いている時は、少し近寄りがたいこともありました。昼は子供と遊び、夜に仕事。父が休めるのは、私たちが幼稚園や学校に行った後だったんじゃないでしょうか。
母が、父にどんな風に絵のアイデアが出てくるのか訊くと、「アイデアは映像フィルムのように頭の中に浮かんでくる」と話したそうです。
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source : 文藝春秋 2024年8月号