獅子文六 息子におくる

岩田 敦夫 長男
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ユーモアに富んだ家庭小説で一躍流行作家となった獅子文六(1893〜1969)。小説や随筆のみならず、演劇人としても名を馳せ、人々に愛された作家を長男である岩田敦夫氏はどう見ていたのか。

 私の父・岩田豊雄(ペンネーム獅子文六、以下文六と記す)は、戦前から戦後にかけて昭和の風俗や家庭の風景を捉え、ユーモアに富む物語とした作品を新聞や雑誌に連載小説として発表し、読者の方々から支持を戴いた。またそれらの作品の多くは、後に映画化されている。代表的な作品としては『悦ちゃん』『南の風』『自由学校』『てんやわんや』『大番』などが挙げられる。

 これらのユーモア小説とは別に、文六は自分と家族をテーマにした自伝小説を二つ発表している。

 文六は明治26年横浜に生まれ、9歳の時に父親を亡くしている。大学中退後フランスに渡り現地の女性と結婚、娘が誕生するが、妻は日本での暮らしに慣れず病死、父娘2人の辛い生活を強いられることになる。文六は娘の養育のために迎えた2人目の妻にも先立たれるが、娘はやがて結婚して無事巣立って行く。その後、文六は老後を平穏に暮らす相手として3人目の妻と結婚するが、還暦を迎えた年に思いがけず私が誕生、人生設計が大きく狂うこととなる。そして昭和44(1969)年文化勲章を受章した年の私の16歳の誕生日にこの世を去った。

獅子文六 ©文藝春秋

 自伝小説の一つ目『娘と私』は、文六がフランス人の女性と結婚し、生まれた娘が成長する過程を描いた作品である。雑誌に連載された後、NHKの連続テレビ小説第一作としてテレビドラマ化された。

 もう一つの題名は『父の乳』。この小説は、文六が9歳の時に亡くなった父親の思い出と、男の子の父親となった自分(文六)とを比較しながら綴った作品である。

 小説家のご子息ご息女の中には、自分のことが作品の中でネタとして使われた経験をお持ちの方も多くおられると思う。人によりそれを許容されることもあるだろうが、私の場合『父の乳』の中で自分のことが書かれることが嫌でたまらなかった。作品のごく一部でさっと取り上げられるのならともかく、長編小説の半分近くを使って詳しく語られるのは嬉しいものではない。

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source : 文藝春秋 2024年8月号

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