萬屋錦之介 鮮やかな啖呵

森次 晃嗣 俳優
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歌舞伎界から映画界へと活躍の場を移し、美空ひばりとのタッグで絶大な人気を博した、萬屋錦之介(1932〜1997)。結婚は3度という大スターと、森次晃嗣氏はご近所づきあいの関係だった。

 萬屋錦之介さんといえば、私の世代にとっては雲上人です。『笛吹童子』『紅孔雀』の大ヒットから、市川雷蔵や大川橋蔵らと時代劇映画の黄金時代を支えた、大看板です。

萬屋錦之介 Ⓒ文藝春秋

 昭和41(1966)年に2人目の奥さまとなる淡路恵子さんと結婚され、お子さんが生まれて私の住む湘南の鵠沼に引っ越してきました。

 私自身、『ウルトラセブン』のモロボシ・ダン役など現代劇から、次第に時代劇に出るようになって、萬屋さんの映画を観てずいぶんと勉強しました。特にあんな鮮やかな啖呵の切り方はほかにありません。胸のすくような台詞回しでした。

 あまりに大御所だったから、知り合っても撮影現場やプライベートで、おいそれと声がかけられませんでした。私より年下の俳優たちが気楽に演技の教えを請うのを見て、驚きました。世代もあるんでしょうね。羨ましかったです。

 萬屋さんの弟・中村嘉葎雄(かつお)さんとも仲が良かったんです。萬屋さんより先に、嘉葎雄さんが鵠沼へ引っ越してきたんですよ。よく一緒に萬屋さんの家へ遊びに行きました。立派なお宅でサウナもあってね。「サウナに入れてもらうよ」なんて言って、嘉葎雄さんと2人で、サウナだけ借りに行ったりもしました。

 その頃、萬屋さんと同じ時代劇の現場に入ることもありましたが、彼は午後3時くらいになると帰ってしまうんです。夕方になると仕事は切り上げてしまうので、それ以降の撮影には代役を立てて、背中を使って後ろ姿を撮っていました。萬屋さんは朝はいくら早くてもいいんです。

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source : 文藝春秋 2024年8月号

genre : ライフ 昭和史 芸能 ライフスタイル