昭和30(1955)年にデビューした宍戸錠(1933〜2020)は、日活アクションで殺し屋を幾度も演じた。親交のあった作家の矢作俊彦氏がスターとの対話を回想する。
1967年は私にとって豊穣の年だった。『気狂いピエロ』がついに上映され、宍戸錠とエースのジョーが珍しく二人揃って最高傑作と呼ぶ『拳銃(コルト)は俺のパスポート』が公開された。(もしそんな職業人が本当にあるなら)殺し屋業界にとってはもっと収穫の多い年だったろう。これに『殺しの烙印』が加わり『紅の流れ星』『みな殺しの拳銃』と続き、ついに殺し屋が市民権を得たのだから(本当にいるならの話だが)。
エースのジョーに実際お目にかかったのは、調布の日活撮影所でも殊に名高いあの食堂で、彼はお約束通りビールを水のように飲んでいた。潰した空き缶が1ダースほどあったろう。それが早撃ちの標的の残骸のように見えた。彼は私を見て笑うと指鉄砲で一撃した。「BANG!」
本当にいるんだ! 私は思った。
有名な豊頬手術について聞きもしないのに彼は語った。凄味が足らなかった。ただの二枚目色男じゃ日活同期の二番手三番手だ。殺し屋で行こうと決めてたんだ、と。「熱心なファン」との最初の会話がそれだった。
それですぐ、このことを文章にすると、次ぎに会ったとき、こう𠮟るのだった。「嘘を書いちゃいけないよ。好き好んで顔を刻む二枚目俳優がどこにいる。おれが頬をふくらましたのは、もっといい男になろうとしただけさ」
じゃあ失敗したことになりますね? とは聞き返せなかった。彼のどこかに、そうはさせないぞという意気込みがあった。
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source : 文藝春秋 2024年8月号