偉大な業績を残し、世を去った5名の人生を振り返る追悼コラム
★槇文彦
建築家・槇文彦(まきふみひこ)はモダニズム建築で出発するが、日本の都市を研究することで、街や建物に「奥」を求める独自の「奥の思想」に至った。
1978(昭和53)年、雑誌に発表した論文「日本の都市空間における『奥』」が注目される。西欧の都市が「中心」を持つのに対し、日本の都市には「奥」が隠されていると論じた。同論文を収めた80年刊の『見えがくれする都市』はロングセラーとなり今も読み継がれている。
28年、東京に生まれる。父は銀行家で、父方の伯父に登山家の槇有恒、母方の祖父に竹中工務店の会長などがいる名門一族だった。慶應義塾普通部に入ったころは航空機の設計者に憧れた。同大学工学部予科に進学するが建築に興味をもち、東京大学工学部建築学科に入学し直して、丹下健三に師事する。黒川紀章、磯崎新と並んで、丹下教室の三羽烏に数えられた。
ハーバード大学に留学し、同大助教授をへて帰国。65年に槇総合計画事務所を開設し、本格的に建築家としての活動を開始する。67年から地元の朝倉不動産の依頼で、代官山の複合施設ヒルサイドテラスに取り掛かる。低層の建物を小道でつなぎ、約30年かけて250メートルの「街」を完成させた。
「他の場所でも作ってくれといわれますが、自分の脚で歩いて、地形に合わせて設計したもので、同じものは難しいのです」
他にも85年に竣工した東京・青山のスパイラル、86年の京都国立近代美術館、89(平成元)年の幕張メッセ、90年の慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスなどが知られる。93年には建築界のノーベル賞とされるプリツカー賞を受賞。海外での仕事も多く、2013年、同時多発テロで崩壊した世界貿易センタービル跡地に4ワールドトレードセンターを竣工させる。
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source : 文藝春秋 2024年8月号