バングラデシュの100万人を超える難民は多くの困難に直面していた
バングラデシュのコックスバザールという場所は、世界一の長さを誇るビーチで有名な町で、中心地には、近隣のインドや国内からの観光客をあてこんだホテルが建ち並び、ナイトバザールが複数ある。しかしここ数年で、コックスバザールは世界最大級の難民キャンプがある町として知られるようになった。
町の中心から車で1時間ほど走ったところにあるキャンプは、ミャンマーから避難した100万人以上のロヒンギャと呼ばれる人たちが暮らしているという。彼らはイスラム教徒(ムスリム)で、もともとはバングラデシュ国境と隣接するミャンマーのラカイン州に住んでいた。
1978年、1990年代初頭にも、ミャンマー政府による弾圧があり、20万人ほどのロヒンギャがミャンマーからバングラデシュに渡っていたが、一気に増えたのは2017年の8月以降だ。
2017年の8月25日、武装したロヒンギャの集団が、国境警備警察とミャンマー国軍の施設を襲撃したのをきっかけに、ミャンマー国軍と警察が武力による掃討作戦をはじめた。のちに欧米諸国によって「民族浄化」「ジェノサイド」だと定義されるほどの大量無差別殺人や集団強姦が行われ、70万人以上のロヒンギャが、川を渡り、山を越え、バングラデシュに避難した。イスラム教徒が約9割を占めるバングラデシュでは、ロヒンギャたちを兄弟として受け入れ、保護に努めてきた。
掃討作戦が終了した以後も、ラカイン州は混乱が続き、避難民は増え続け、そうしてコックスバザールのキャンプが今のように膨れ上がった。
国籍を持たない人々
ロヒンギャという言葉を私がはじめて目にしたのは2018年、アウン・サン・スー・チー女史が1991年に受賞したノーベル平和賞を剥奪すべきかどうかという議論が巻き起こったときだ。前年の掃討作戦がジェノサイド条約違反だとする国際司法裁判において、スー・チー氏はジェノサイドを否定したので、その論争が巻き起こったのである。このときはじめてロヒンギャという存在を知った私は、てっきり、ロヒンギャを巡る一連の問題は、ごく最近のできごとなのだと思いこんでいた。
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